2023年8月15日火曜日

現代的な心身医学 文字起こし 2

 これは先ほどの図を少し改変したものです。つまりMUSを含む円の中から出て行ったものとして、MS/CFSやFMが挙げられます。その理由はすでに述べたとおりです。にその外側から入ってきたものとしてPNESが挙げられています。なぜ外側かというと、これまではれっきとした神経内科的疾患、つまりMUSではないものとして扱われてきたものが、実は心因性ではないかと言われるようになったからです。

いわゆる転換性障害 CD
 さて次はいわゆる転換性障害についてです。これらはちなみにDSM-5とICD-11 では名称変更が行われ、それぞれ DSM-5: 機能性神経学的症状症 (FND)、 ICD-11: 解離性神経学的症状症
Dissociative neurological symptom disorder と呼ばれています。ややこしいですね。この障害の特徴は、「運動、感覚、認知機能の正常な統合が不随意的に断絶することに伴う症状により特徴づけられる。臨床所見は、既知の神経系の疾患または他の医学的状態と合致しない。」と表されます。 
これは以下に分類されます。と言っても網羅的なので退屈に感じられるかもしれません。視覚症状を伴うもの、聴覚症状を伴うもの、眩暈を伴うもの、その他の特定の感覚障害を伴うもの、非癲癇性痙攣を伴うもの、発話症状を伴うもの、麻痺または筋力低下を伴うもの、歩行障害の症状を伴うもの、運動障害の症状を伴うもの、認知症状を伴うもの、その他の特異的な症状を伴うもの、特定できない症状を伴うもの、など。
 ところで診断の際、ストレス因や心理的要因、疾病利得の有無などは特に問わない、とあります。この一文は極めて重要です。なぜならばこの一項目で、いわゆる転換性障害は心因性の疾患ではないということが示されているわけです。そしてもちろん「転換性障害」でもありません。私が「いわゆる」といちいち断り書きを着けているのはその様な理由です。
 この発表で強調しているもう一点は、この転換性障害という概念もDSMとICDから締め出されているということを示したいからです。ではなぜ転換性障害 (変換症)の呼称が消える傾向にあるのか? Stone (2010)の論文を参考にしましょう。彼は言います。
まずフロイトの唱えた転換 Konversion(心的葛藤が身体症状に転換される)の概念は仮説の一つに過ぎない。というのもフロイトは鬱積したリビドーが身体の方に移されることで身体症状が生まれるという意味で、この転換という言葉を使ったからです。しかし実はそれ自体が証明されてるわけではなく、転換性障害に心理的な要因 psychological factors は存在しない場合もあるということです。そして2013年 DSM-5では「変換症/転換性障害(機能性神経症状症)」となったのです。そして2022年 ICD-11では「解離性神経学的症状症」となりました。さらには昨年(2022年)発売された DSM-5-TRでは「機能性神経症状症(変換症/転換性障害)」となったのです。つまり「機能性神経症状症がかっこから出て、「変換症」の方がカッコに入ったのです。つぎのDSM-6(あるいはDSM-5-TR2とかになるのでしょうか?)ではこれも使われなくなるのはほぼ間違いないことでしょう。 
 
参考までにフロイトの実際の記述を示します。
「患者は、相容れない強力な表象を弱体化し、消し去るため、そこに「付着している(5) 興奮量全体すなわち情動をそこから奪い取る」(GW1: 63)。そしてその表象から切り離された興 奮量は別の利用へと回されるが、そこで興奮量の身体的なものへの「転換(Konversion)」が生 じると、ヒステリー症状が生まれるのである。
Jon Stone (2010)Issues for DSM-5:Conversion Disorder  Am J Psychiatry 167:626-627.