2023年8月14日月曜日

現代的な心身医学 文字起こし 1

7月に心身医学会で行った講演の文字起こしをしようと思ったら、何と一時間の録音のうち最初の半分しか入っていなかった・・・・ということで後半の部分をスライドを見ながら文字起こしする。どんなことを話したか忘れないようにこうするのである。録音はPNES(心因性非癲癇性痙攣)の部分で途切れている。そこで次のイップスについてから始める。スライドで言うとちょうど真ん中のあたりである。

Yips (局所性ジストニア)
 さて次はイップスですが、これは「今まで問題なくできていた動作が突然もしくは徐々にできなくなるもの」であると定義されるものです。私はこれを今日のお話に含めるべきかかなり迷いましたが、結局入れることにしました。というのもこのイップスも様々な分野で別々なものとして扱われるものの典型と考えることが出来るからです。
イップスについては、ゴルフ、野球などのスポーツに関するもの、器楽演奏などの音楽に関するものが知られています。それまで半ば自動化されていた体の動きが損なわれ、本来の動作の軌道が再現出来なくなってしまう症状を示す。熟練したプロでも発症してしまうのが特徴で、それはスポーツ選手でも器楽演奏でもいえることです。ただしもちろん初心者にこの症状が起きないという保証はありません。ただしスポーツ選手にしても音楽家にしても、一旦これにかかると職業生命を失いかねないほどの重大な影響を及ぼすため、非常に関心を寄せられています。さてこのイップスは現在では様々な神経学的研究がなされ、focal dystonia として神経内科で扱われるようになってきているのです。
 ところでこのイップスもまた心因性のものと「誤解」されてきたという歴史があります。そしてそれが現在進行形で起きているのです。
 
 


 例えばこれは日本イップス協会という組織のホームページから引用したものですが、次のようにあります。
「イップス(イップス症状)は心の葛藤(意識、無意識)により、筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼす心理的症状です。スポーツ(野球、ゴルフ、卓球、テニス、サッカー、ダーツ、楽器等)の集中すべき場面で、プレッシャーにより極度に緊張を生じ、無意識に筋肉の硬化を起こし、思い通りのパフォーマンスを発揮できない症状をいいます。」(日本イップス協会HPより。)
この心理的症状という表現が実は非常に誤解を呼ぶものです。ここには「無意識」などという表現も出てきて、いかにこの状態が心の病かということを強調しています。
ところが同じイップスの専門科には、それとは逆の立場を主張する先生もいらっしゃいます。

平孝臣先生はその著書で、イップスは心因性ではない、と以下のように明確に述べていらっしゃいます。

イップスやふるえは長年「心の問題」とされてきましたが、現在では脳内の運動機能をつかさどる神経回路の機能的異常から起きるもので、脳の手術で劇的に改善することがわかってきました。」平孝臣(2021)そのふるえ・イップス 心因性ではありません.法研 2021年

 私はイップスの専門家(一人はイップス協会の会長、もう一人は医学者)の意見がここまで違うことに非常に興味を覚えます。そしてやはりイップスはMUSのお仲間入りにすべきだと思います。というのもその振る舞いはまさに、MS/CFSやGMと一緒なのです。