2023年7月22日土曜日

連載エッセイ 6の5

 人間の脳はタイムシェアリング型か、マルチコア型か?


 多重人格状態を私たちにとって最もなじみのあるパソコンにおける複数のプログラムが立ち上がった状態とすると、アナロジーとして二つある事は示した。もちろんパソコンと人間の脳は全く別物であり、このアナロジー自体が成り立たないほど異なっているかもしれないが、今のところ考えられるモデルとして示しているのだ。そしてだまし絵の類推からするに、タイムシェアリング型は恐らく成立しないことは示した。フロイトも考えた「すり替わり説」のことだが、その様な芸当は人間の脳では不可能らしい。人間の右脳を構成する神経系のスピードの速さとコンピューターの情報処理の速度を考えればいいだろう。たとえばCPUのスピードが1ギガヘルツなら、1秒間に10億回 1+1の演算をすることになる。それに比べて脳のニューラルネットワークは1秒間にせいぜい数百回程度得あるという。(一秒間に数百個の電気パルスを出すということだ)(前野隆司(2004)脳はなぜ「心」を作ったのか。―「私」の謎を解く受動意識仮説. 筑摩書房p.199)つまり計算の速度は100万倍以上の差がある事になる。これではすり替わったとしての目の粗さは歴然である。分身の術を使うために出来る限り素早く入れ替わったとしても、スピードが十分速くないと、「あ、二人いる」という錯覚は生まれないわけだ。というわけで人間の脳については、タイムシェアリング型はボツということになる。

 ではマルチコアはどうだろうか? ここでお断りしておくならば、人間の脳は生まれながらにしてデュアルコアなのである。それは脳が基本的には右脳と左脳に分かれており、それぞれがある程度独立して機能していると考えられているからである。