今回はいよいよ脳科学にとってまさに本丸と言える問題、つまり意識について論じたい。このテーマについて論じることはある意味で気楽で、また別の意味で非常に荷が重いのだ。気楽であるというのは、今のところ誰も一つの正解に至っていないからだ。だから私自身の勝手な仮説を立てても、よほどのことがない限り誰かに真っ向から否定されることはないであろう。荷が重いというのは端的に、このテーマが難問中の難問 hard problem (チャーマーズ)だからであり、そのこと自体が常識と化しているからだ。
さて意識についての最近の研究で気になる理論を三つ挙げておきたい。一つはいわゆるクオリアをめぐる問題だ。クオリアqualia (複)とは要するに質感ということだがバラの花のあの感じ、と表現されるような「感じ」として私たちがいつも日常生活で体験するものだ。
ちなみにDaniel
Dennett はクオリアの要因として4つの特性を示した。
INEFFABLE,
言葉で表せない - 他者と伝達できない。その体験そのもの以外の何物によっても捉えられない。
INTRINSIC,
内在的である - 相対的とか相関的なものではない。その体験自体とは別なこととの関係に依存しない。
PRIVATE, 本人にしかわからない - クオリアについて人間相互で系統的に比較することはできない。
directly
or immediately apprehensible by consciousness, 知覚によって直接ないし即座に捉えられる - クオリアを体験することは、クオリアを体験する者を知り、なおかつそのクオリアについて知るべきすべてを知ることである。
クオリアがどういったものかであると定義するかには様々な考え方があるが、おおよそ次にあげるような性質があるものとして議論される。
ちなみにこのクオリア論は、ダニエル・デネットや、またわが国では茂木健一郎が有名とされる。