2023年5月23日火曜日

連載エッセイ 4の3

 脳のデフォルトの在り方は揺らぎである

脳の働きを突き詰めると神経細胞の一つ一つの電気活動になるということは述べた。そして神経細胞は決して静止していない。ほかの神経細胞から切り離しても、僅かな電気信号を発している。もちろんそこにはっきりした規則性はない。それは「揺らいでいる」といってもいいし、自発的に勝手に動いている、といってもいい。そして神経細胞同士は実は隣の細胞とも、遠隔の細胞とも神経線維を介してつながっている。しかしその全体が特にまとまった活動をしていないのであれば、全体として揺らいでいるのだ。

「脳が、心が揺らいでいるって? 何のことなの?」と皆さんはおっしゃるかもしれない。そこで次のような課題を差し上げよう。

「目をつぶって、まったく揺らぎのない、均一な暗闇をイメージしてください。」 

みなさんはそれを試すだろう。例えば漆黒の闇を思い浮かべてみる。そしてすぐ気が付くのは、それはよくよく見れば、細部が次々と形を変える視覚イメージだろう。それはオーロラのように常に形を変えるかもしれない。そう、あなたのイメージは「揺らいで」いるのだ。

あるいは完璧な防音室に入ってみるといい。学校の放送室などのドアを閉めた後の不思議な体験を思い出す方もいるだろう。それは決して何も聞こえないのではなく、何かが聞こえているようで聞こえていないような、不思議な体験である。これも揺らぎだ。

この体験を表すのに一番近い例として、私はブラウン管の砂嵐を思い浮かべる。もうブラウン管という言葉が死語になりつつあるが、テレビがまだ背中が出っ張った分厚い形をした姿であった頃の話だ。放送をしていないチャンネルに合わせると、この砂嵐が見えた。