2023年5月11日木曜日

連載エッセイ 4の1

 脳は臨界状態にある

 私は気が弱い人間である。こうして連載が始まった最初からびくびくしていることがある。それはこれを読んだ方から「全然脳科学じゃない。それに全然心理士向きじゃない!」という批判を浴びることだ。「だったら最初から脳について、臨床について書けばいいじゃん」と自分に突っ込みを入れてみる。ところがそうはいかない。いざ書くとなると、その時に出てくるものは予想外なものなのだ。脳は勝手に動いて何かを産生する。私たちはその事実にもう少し直面しなくてはならない。脳とはそのような性質のものだからだ。脳とは他者である・・・・。とこうなってしまう。臨床を行う心理士はこの点を常に理解してクライエントと向き合うべきなのである、と言いたいのだが、これじゃ何を言っているか絶対に伝わらないという自覚だけはある。それでなかなか本題に入れないのだ。

でもさすがに連載4回目となると本題に入らないわけにはいかない。そこで私なりに試みてみよう。そこで選ぶのが「脳は臨界状況にある」である。

臨界状況という言葉をお聞きになった方は少なくないであろう。臨界とは、あるシステムが大きな変化を今にも起こしそうになっている状態である。過冷却された水が今にも氷結を開始しそうになっている状態。銀行が今にも破綻しそうになっている状態。大きな地震が今にも起きそうになっている状態。人が今にも恋に陥りそうになっている状態…。ばらばらに例を挙げたが、ニュアンスはわかっていただけたかもしれない。