2023年4月18日火曜日

ある書評 1

 

 現在ある書評を書いている。まだ未投稿なので詳しくは書けない。A先生の本著作が最初に出版されたのは2005年の6月であり、遡ること18年前の事であった。当時はこの一人の症例についての詳細できめ細かな治療録は極めて高い評価を得た。それから15年が経過し、著者が新訂増補版を出版することとなった。そして出来上がったのが本書である。2005年といえば日本の精神分析の大黒柱であり、本書にも頻繁に登場する小此木啓吾先生が2003年に死去し、その激震から私たち分析家が立ち直れていない状態であった。著者のA先生も私自身も小此木先生には非常にお世話になり、それなりに目をかけていただいたという思いがある。今回本書の書評を書かせていただくことになったのも、その意味で私達が小此木先生にお世話いただいたきょうだいのような立場にあったことが関係しているように思い、大変ありがたく、また光栄に感じている。

さてそれから十数年が経つ間に、実に多くのことが起きたという思いがある。当時は精神分析の世界で小此木先生の薫陶を受けなかった人などほとんどいないと言えるほど、先生は日本の精神分析界を束ねる役割をお持ちだった。しかし現在では学派ごとの対立も見られ、我が国の精神分析が多元化したというよりは、全体としての求心力を失っているという感を持つ。

その中で小此木先生、そして先生と極めて懇意になさっていた故・丸田俊彦先生の流れをくむA先生の存在やその活躍ぶりは、私自身もとても頼もしく感じている。