2023年3月26日日曜日

連載エッセイ 2-2

 

いよいよ「ニューラルネットワークモデル」

 

さて以上を前振りとして今回のテーマである「ニューラルネットワークモデル」について論じたい。

これまでに私は、心というのは、脳の微細なネットワークと関係しているらしいということを示した。脳とはその構成単位である神経細胞(ニューロン)が微細な電気信号を出し、それが集まって電気の信号となり、それがそのネットワークの間を縦横無尽に行きかっているらしい。でもそれだけでは心=脳細胞の間の電気信号のやり取り、ということ以上は何もわからないことになる。問題はネットワークがどうやって心を生成するかである。そのことを理解するために必要なのが「ニューラルネットワークモデル」の理解なのだ。

 ここで「ニューラルネットワークモデル」を検索してみた方は、少し不思議な思いをするはずだ。日本IBMのサイトからその定義を借用しよう。(https://www.ibm.com/docs/ja/spss-modeler/18.4.0?topic=networks-neural-model)。「ニューラル・ネットワークは、人間の脳が情報を処理する方法を単純化したモデルです。 ニューラル・ネットワーク・ノードは、連係する多数の単純な処理単位をシミュレートします。処理ユニットは、ニューロンを抽象化したものと表現できます。」

これを読んで「あれ、これって脳の話なの?それともコンピューターの話なの?」と混乱するかもしれない。正しくは、このモデルは脳で起きていることを大胆に単純化してシミュレートしたモデルなのだ。「ニューラル」とはニューロン(神経細胞)の、という意味だが実際にここで論じているのはノード(結び目)であり、実際の生身の脳の神経細胞のことではない。だから「ニューラルネットワークモデル」は脳の実際の神経細胞とそれらを連絡する神経線維を表しているのではなく、それを極めて単純化して図式化したものをそう呼んでいるから紛らわしいのだ。

とにかくこの紛らわしい「ニューラルネットワークモデル」からスタートするのだが、ここで前提とすべきことを挙げておきたい。脳の本質的なあり方は、それが神経細胞からなるネットワークにより構成されているということだ。すなわちそれは神経細胞(それも膨大な数、一つの脳の中に一千億個とも言われる)とそれらの間を微弱な電気信号の連絡により結び付けている神経線維からなる巨大な編み目構造ということになる。しかし神経ネットワークがどのような構造になっていてどのようなルールのもとに形成されているかはあまりに複雑でわからない。でもとりあえずはそれが脳の基本的な構成要素であるという理解を「ニューラルネットワーク仮説」と呼んでおこう。おそらく現代の脳科学者の中でこの仮説に基づかない人はいないのではないかと思えるくらいに、これは基本的な了解事項なのだ。

ただし例外としては、例えばロジャー・ペンローズやスチュワート・ハメロフと言った論客が、ニューロン内のマイクロチューブルと呼ばれる微細構造に生じる量子力学的効果を意識の根源を見なしているという。こうなるとニューロン一つ一つが意識を有することになりかねないが、もちろんこの説を否定するだけの論拠を誰も持ち合わせてはいないのだ。