2023年3月16日木曜日

共感の脳科学 推敲 2

 

次に情動的共感についてである。これらをつかさどるのは、IFG(下前頭葉)であり、島、扁桃核、前帯状回である。ただしこの際も結局はvmPFCによる情動的ToMが関わってきているらしいのだ。
 人の感情を理解する上でとらえられているのはいわゆる理論説 theory theory とシミュレーション説 simulation theory がある。このうち前者は結局認知的ToMに深く関連していることになる。それに対していわゆる情動的共感を説明する理論の代表が、シミュレーション説ということになる。シミュレーション Simulation は結局は脳を対象と同じように働かせることであるというが、そこで必要となるのは理論ではなく想像であり表象を用いた共鳴 resonance である。たとえば100キロマラソンを走り終えた人に情動的共感をするためには、それを走り終えた自分というイメージを膨らませ、その状況に身を置いた自分を想像する。
  Dvashp.289)は人の情動を推し量るうえで、結局自伝的な記憶の想起が大きく関係しており、その想起の能力と他者の気持ちを推し量る力にはかなりのオーバーラップが見られるというのだ。そしてそこで重要なのが intrapersonal ToM であり自己メンタライジング self-mentalizing であるという。情動的な自己省察にはvmPFCが働くということだが、上記の他者の情動状態への共感の際に働くのが、mPFCと内側側頭葉 medial temporal lobe であるという。もちろん他者の情動理解にはほかの経路もあるものの、自分の過去の同様の経験を思い起こすということの重要性が注目されるようになってきているのだ。

 ところで mPFCは以下のように機能分化しているそうだ。要するに vmPFC は自分の記憶を呼び覚まして相手の情動を知るという一種認知的なプロセスに関連しているということだろうか。

dmPFC 背内側前頭前野 認知的、対人的 interpersonal

vmPFC  副内側前頭前野 情動的、個人内的 intrapersonal

さらに注目されるのは、その際にさらに自動的なプロセスも働いているというのだ。それがミラーニューロンである。人間ではIFGと後方頭頂葉(Dvash,289)に見られるが、それが働くことがこの共感能力に貢献しているとされる。(ここでIFGは情緒的な共感に重要な部位として先ほど出てきたことに注目すべし。)