2023年2月28日火曜日

現代における心身相関の問題 6

 さて次はPNESについて考える。PNESとは英語で心因性非癲癇性痙攣 psychogenic non-epileptic seizure と呼ばれるものの頭文字であるが、最近一種の流行の兆しを見せている。どうやらキャッチ―な呼び方を与えられると一気に広がるという傾向があるようである。これまであまり売れていなかったものを、パッケージを一新したら急に売れ始めた、というような。PNESだって、これまで偽性癲癇とかヒステリー性痙攣とか呼ばれていたものを、客観的に呼び変えて、その長たらしい名前を頭文字で発音しやすいPNES(ピーネス)としたら、急に論じられるようになったという所はないのだろうか。(発音に気を付けよう。英語圏でうっかり「ピーナス」と読んでしまうと大変なことになってしまうだろう)。
 このPNESはしかし、話題になってしかるべきだ。これこそMUSmedically unexplained symptoms 医学的に説明できない症状)の典型、そして現代のヒステリーの典型ではないか。(ただしPNESという名前がそれほど客観的、現代的とも言えないところがある。なにしろこれは「心因性非癲癇性痙攣」のことであるが、「心因性」という概念自体が古くなりつつある。「心の何が原因で痙攣が起きるの?心が原因であるというエビデンスは?」と問われると何も言えなくなってしまうからである。)だからもっと正しい言い方は単にNES(非癲癇性痙攣)であるべきだ。あるいは「脳波異常を伴わない痙攣」とかね。

 というのもこのPNESを呈する患者さんの数は非常に多いのだが、そのかなりの部分が、その診断が下るまでは真正癲癇と誤診され続けているということが最近になって明らかになってきているからだ。何しろPNESと診断された時点で、四分の三以上(文献によっては80%)の患者さんが、誤って抗癲癇薬を処方されていたという。またこれまで比較的よく語られていた(私もそう信じていた)PNESのかなりの部分が真正癲癇に合併するという話は、実は10%ほどでしかないとも言われる。さらに癲癇重積発作(痙攣発作が長時間持続的に起きる状態)としてERに送られてきたケースの25%は実はPNESであったという。というのも従来癲癇は、臨床所見だけで(つまり脳波検査をせずに)下される傾向にあったからだ。それに診断の決め手となるEEG-Videoという機器を備えていないところが圧倒的に多いであろう。すでに述べたがこのPNESの面白いところは、神経内科の世界で論じられてはいても、解離との関連はほとんど出てこないという点だ。
 少し文献を読んでみよう。ほかのMUSと違い、診断は極めてシンプルで、それはEEG-Video によるモニタリングが決定的だという。そしてモニターをしている間に痙攣発作が起きたら、診断は100%であるという。ただし問題は、その限られた時間内に発作が起きるかどうかなのである。