2023年2月14日火曜日

神経ネットワーク 4

  このエッセイは脳科学に関するものであるが、読者の皆さんは「ニューラルネットワーク」あるいはほとんど同じ意味だが「神経ネットワーク」という言葉をどの程度ご存じだろうか。あるいはそれに対してどのような印象を持っているだろうか?私が「脳科学」について考えるとき、ほぼ同時に「ニューラルネットワーク」を考えている。脳を科学するとは、ニューラルネットワークを科学することとほぼ同じことだと思っている。そしてそれは概ね正しいと考えるが、誤解を生まないように幾つかの解説が必要となる。ちなみにニューラル、とは「ニューロンneuronの」という意味であり、ニューロンとは神経細胞のことである。

まず前提とすべきこと。脳の本質的なあり方は、それが神経細胞からなるネットワークにより構成されているということだ。すなわちそれは神経細胞(それも膨大な数、一つの脳の中に一千億個とも言われる)とそれらの間を微弱な電気信号の連絡により結び付けている神経線維からなる巨大な編み目構造ということになる。しかし神経ネットワークがどのような構造になっていてどのようなルールのもとに形成されているかはあまりに複雑でわからない。でもとりあえずはそれが脳の基本的な構成要素であるという理解を「ニューラルネットワーク仮説」と呼んでおこう。おそらく現代の脳科学者の中でこの仮説に基づかない人はいないのではないかと思えるくらいに、これは基本的な了解事項なのだ。

ただし例外としては、例えばロジャー・ペンローズやスチュワート・ハメロフと言った論客が、ニューロン内のマイクロチューブルと呼ばれる微細構造に生じる量子力学的効果を意識の根源を見なしているという。こうなるとニューロン一つ一つが意識を有することになりかねないが、もちろんこの説を否定するだけの論拠を誰も持ち合わせてはいないのだ。

 神経ネットワーク=脳なのか

 さて皆さんの中にはさっそく混乱してきている方がいらっしゃるだろう。「え?ニューラルネットワークって、結局脳のことなの?」実はこの疑問はとても複雑な問題をはらんでいるのであるが、いわゆるパーセプトロンが生まれたという経緯である。脳の働きを一種のコンピューターの素子の組み合わせのような形で表現しようとしたのがいわゆるパーセプトロンという概念であった。このモデルを作るという試みは1950年代には行われ始めた。 

1958年、フランク・ローゼンブラットパーセプトロンと名付けたものを発表した。この図に見られるような、入力層としていくつかの素子、出力層としていくつかの素子、途中に隠れ層があるというモデルである。

このモデルは非常に分かりやすく言えば、一種のあみだくじのモデルと同じなのだ。一番左の列はそのくじの参加者のリストA,B,Cさん、一番右は当たりかハズレ、あるいはa.b.cなどのどれに当たるか、を意味する。途中の隠れ層は、あみだくじの時と伏せられている。そしてAさんがa,BさんがbCさんがcに当たるようにするためには、途中の梯にどのような線が書き入れられるかによる。