2023年2月18日土曜日

共感の脳科学 6

 共感の脳科学というテーマに関して、もう一つ挙げておくべきなのが、アラン・ショアの最近の業績、特に右脳に関する研究である。それによると二人の人間が相互交流をした場合、「1000分の一秒のタイムスケールで、二つの脳の右頭頂部間の同期性が報告されている」という。「右側頭頭頂接合部(TPJ)は社会的相互作用で活性化されることが知られており、注意処理、知覚による気付き、顔と声の処理、共感的理解の状態に中心的に関与していることを彼らは指摘している」(両方ともショア「右脳精神療法」p6より引用)。この部位の役割に注意を向けよう。側頭と言えば聴覚皮質であり、頭頂葉は体性感覚とつかさどる。そしてここでは視覚、聴覚、耐性、辺縁系の各領域からも入力があるという。これをショアらは「右脳対右脳同期伝達モデル」と呼ぶという。そしてこの右TPJの同期は、共有されたコミュニケーション履歴を持つペアでのみ生起したという。

ショアが引用しているGuillaume Dumas という人のペーパーが、何とネットでただで手に入った。夢のようだが、最近は皆こぞって自分の論文をオープンアクセスにしていることがありがたい。
Dumas G. Towards a two-body neuroscience. Commun Integr Biol. 2011 May;4(3):349-52.

Dumas G, Nadel J, Soussignan R, Martinerie J, Garnero L (2010) Inter-Brain Synchronization during Social Interaction. PLoS ONE 5(8): e12166. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0012166

その論文に出てくるシェーマは、ショア先生も引用しているのだが、左右の脳の色のついた線の違いが分からなかった。原文によると、青がα波、黄色がβ波、赤がγ波ということだ。

ただしこの実験は、二人の人間が互いに手の動きを模倣し合うという作業を通してであったという。両者のEEGを同時に図ったという。どうりでTPJが反応するわけである。もし両者が同じ感動を持ったとしたら、両者の島とか前帯状皮質あたりが同期するはずだろう。