このトノーニの図にそれぞれΦ=●●という表記があるのが分かるだろう。これこそ彼がそれぞれのネットワークが含むべき情報量として示したものである。これは要するにそれぞれのネットワークがいくつもの異なる興奮の組み合わせを有することが出来るか、ということである。たとえば上段左のネットワークは四つの部分がそれぞれ分かれていて、どこを刺激しても隣の神経細胞に信号を送るだけの単純な反応しか起こさない。上段右の図はたくさんのパターンを有するようで、実は全体が一緒に興奮するだけという少ないパターンしか有しないという風に、である。そして真ん中のΦ=74として示されているものが一番多くの情報量を含むというのだが、これは一見簡単な構造のようであるが、コンピューターで複雑な計算をした結果導き出されたものであるという。
それが証拠にどこか一つに刺激を与えるとその信号が次々と伝達されてしばらくはそのネットワークが「鳴り続けて」いることになる。それを示すのが以下の図である(トノーニ、同著、P201)。
人間の脳の中でどのネットワークが意識を生み出しているかというのは難しい問題だが、トノーニはその一つとして選ぶのが皮質-視床系だった。外界からの情報はまず感覚器から大脳皮質へと入力される。としてそれは視床で統合されて再び大脳皮質に送られる。この皮質と視床との情報のやり取りは両方向性で、一秒間に何十回となく行われるという。そしてこの皮質―視床系のネットワークこそが大きなΦを有しているのだ。脳にはそれ以外にも神経細胞の8割を抱えている小脳や、大脳辺縁系があるが、これらはむしろ保存できる情報量すなわちΦは小さいという。つまりぎっしり神経細胞が詰まっていても、パソコンのCPU的な単純な結びつきしか持っておらず、したがってそれら自身が意識を有することもないわけだ。