2022年11月7日月曜日

感情と精神療法 書き直し 4

 転移理論の問題―転移感情は自然発生的なものだろうか?

フロイトの考案した方法はしかし一つの問題を持っていた。それは陽性の転移感情はそれほどうまくは醸成してくれないことである。フロイトの理論に従うならば、転移感情は精神分析の枠組みではデフォルトとして生じると言っているようである。治療において感情はどのような意味や役割を持っているのかについて、フロイト自身は明白な見解を持っていたようである。患者は精神分析的な枠組みの中では治療者にある種の陽性の感情、すなわち転移感情を有するのだ、ということである。しかもこれは印象だが、患者は全員、デフォルトでそのような傾向を持っているかのような書き方である。ちょうどアンナOがブロイアーに示したように、そしてある患者がフロイトの首に手を回してに愛情表現を示して動揺させたように、である。私だったら「でもフロイト先生、そもそも患者さんは治療者に強い感情や関心を持っていないことだってあるのではないのですか?」と尋ねたくなる。しかしフロイトは絶対次のように言ってくるはずだ。「もちろんその感情は患者自身にとっては意識化されていないこともあるでしょう。それを抑圧や抵抗と呼ぶのです。」そうして付け加えるだろう。「治療者が自分の姿を現さず、患者の愛の希求を満たさないことでその感情は高まっていくのです。」

しかし治療者が受け身性や禁欲原則を守ることで、逆に患者の側からの陽性転移はかなり抑制されてしまう結果となりうるということも現代の精神分析家たちは知っている。場合によっては自分のことを隠し、治療の多くの時間を黙って患者の話に耳を傾けるだけの治療者に対して、患者はネガティブな感情を持つことになりかねない。つまり治療者の受け身性が促す転移はあまり好ましくない治療の展開を生むこともある。患者は受け身的で情緒剝奪的な両親像のイメージを治療者に投影するのである。患者は治療者のことを、過去に満足な養育環境を提供してくれなかった両親と同類の人間と感じ、そう見なす。彼は半ば必然的に怒りの感情を治療者に向けることになるだろう。多くの分析的な治療者はこれを治療の「進展」と考えるであろう。「ようやく転移が生じたな」そしてそこに表された患者の怒りや羨望を治療的に扱おうと考えるはずである。

フロイトが最終的に行きついた理解は十分納得のいくものであった。それは極端な陰性感情も、また性愛性を含む陽性感情も治療の妨げになるということだ。おそらくフロイトはそのような事情を理解し、最終的に次のような考えを示している。

フロイトは最終的に「治療の進展にとって邪魔にならない陽生転移 unobjectionable positive transference, UOPT」が治療の決め手になるという言い方をしている。つまり治療者に対して向けられた緩やかな陽性の感情こそが治療の進展の決め手となるということである。