2022年10月25日火曜日

感情と精神療法 推敲 1

 フロイトにとっての感情

「感情と精神療法」はかなり大きなテーマである。精神科領域においても自然科学一般と同様、目に見えたり測定可能なものがその対象として注目されることから始まった。他方では情動の問題はつかみがたいもの、扱い難いものとして敬遠されてきたのである。その意味で一世以上前のフロイトが情動の持つ意味に注目したのは画期的な事であった。フロイトは精神分析を形成する前にブロイアーと共に、患者が大きな情動表現をしたのちに症状が治まるという、いわゆる「除反応」の現象に深く印象付けられた。表現されていない感情が蓄積されることが症状を生むという理解がフロイトのおおもとの発想だったのである。この様に感情の蓄積やその表現は病理に結びついていると考えたフロイトにとっては、患者が治療者に向ける平等、すなわち転移感情も治癒を妨害するものと考えたのである。

 ここからはフロイトについて長年考え続けてきた筆者の持つ仮説部分を含むが、フロイトの人生において感情は非常に大きな位置を占めていたことは間違いない。フロイトのポートレートを見ると、どれもしかつめらしい顔を見せ、笑顔はほとんど見られない。しかしそれはフロイトの防衛的な部分の表れであり、彼ほどの情熱家はいなかったと言えるほど人や物事への思い入れを持った。婚約時代のマルタへのラブレターに負けないくらい情熱的な手紙をフリースなどに書き送っている。「私にとってあなたほど偉大な存在など考えられません」的な熱烈な手紙を送っていたのだ。その意味で彼はまさに「ツンデレ」だったのだ。