2022年10月18日火曜日

神経哲学の教え 11

 DMNにおける機能として重要なのが、未来の予測ということになる。DMNにおけるマインドワンダリングは常に外的な知覚刺激や内受容感覚を体験している。そしてそれはある種の快楽体験や不快体験の到来を予測することを促す。心はそれこそ「フラフラしているわけにはいかない」とさっそく予測を始める。ある動物の鳴き声の様なものがしたら、それはどの方角からやってきて、それはこちらが捕食する側なのか、捕食される側なのか、つまりそちらに向かうか、あるいは遠ざかるべきかの判断を下す。

この予想の機能については、フリストンの「自由エネルギー原理」が提案していることだ。生命体はよりよく予測し得たもの、そしてより多くの快を得、より少ない不快や危機を体験することで生存の可能性を高める。だから予想とはとても大事な機能だ。そこにDMNが関与していないということはないだろう。DMNはいつ何時、どこからか何かのサインが到来するのではないかと待ち構えているところがあるのだろう。アイドリング状態といってもただ意味もなくエンジンを回転させているわけではないのだ。何かの予測をする段階ではタスクポジティブネットワークが働くことになる。

ただし問題は人の心はタスクを継続して行うことが出来ずに、DMNに回帰するという特徴を持っているということだ。その理由は不明だが、私はこんなことを考えた。アフリカのサバンナでガゼルが草を食んでいる。おそらく23秒草を食べてから彼は周囲をきょろきょろ見渡すだろう。外敵が近づいているのではないかと注意するのだ。ガゼルは一つのタスクに集中することの危険を知っているのだろう。それと同じ理由かはわからないが、人も一つのタスクに集中することで周囲への警戒がおろそかになる。だからしばしばマインドワンダリングに戻るのだ。

興味深いことに、このマインドワンダリング自体はかなり長い時間続く可能性があるのだ。のどかな午後にリビングで本から目をそらして空想にふけっているうちに寝入ってしまう…。おそらくDMNはかなり長時間にわたって維持される可能性がある。時々空腹を感じたり、ケータイがなったりして途切れることはあるだろうが。

この長時間のマインドワンダリングが果たす役目は明確ではないが、そこで大切な記憶の再強化と、そうでないネットワークのプルーニングが起きている可能性もあるだろう。そしてそこでは時々新しいネットワークの生成も起きる。その中である種の美的な印象を与える場合には、それは意識に上るというわけだ。