2022年8月13日土曜日

不安の精神病理学 再考 9

 不安は結局CSTCループの過活動と見なすことが出来るというのが、おそらく神経薬理の立場である。一回それを考えることは「恐れの先取り」の体験を生む。それが何度も襲ってくるのが問題なのだ。もし一週間後に罰ゲームか何かで人前で苦手な歌を歌わなくてはならないという人が、一日の間に平均10回そのことを思い出して、そのたびに不安になるとしよう。その様な時に大きな事件や身の回りの一大事が起きてしまい、その出来事に気を取られて「一週間先の歌」の様な些細なことは全く頭に浮かばなかったとする。それは結局は不安を軽減することになるのだ。

 同様のことは事後的にも起きる。あなたが実際に歌を歌って恥をかいたとする(大概はそう思い込んでいるだけだ。他の人はそんなことを気にしていない)。その後23日はその出来事を恥ずかしくて自分を情けなく思い、他のことが手につかなかったり、落ち込んだりするかもしれない。しかし徐々にそのことを忘れていくのであり、例えば一月後にその体験のことを思い起こしても、恥をかいたという事実は少しも変わらないとしても、そのことで思い悩むことがなくなる。その少なくとも一つの原因は、それが想起される頻度が低下しているからだ。

同様のことは強迫思考を取ればわかりやすい。CSTCループは、強迫思考の時も活性化されているという説もあるというが、すると「自分がここに来るまでに誰かを押し倒してきたかもしれない」という強迫思考(実際にしばしば聞く訴えである)は、まさにそれが襲って来る頻度と執拗さによりその人を苦しめることになるのだ。ということでCSTCそのものが苦痛を生まないとしても、それが「先取りの恐れ」を呼び起こすことで苦痛体験となる、と理解した場合CSTCループを抑制するような、様々な神経伝達物質の効果が期待されるのだ。