2022年8月14日日曜日

不安の精神病理学 再考 10

  ところでCSTCの研究の発端の一つは、いわゆる「脳深部電気刺激」らしい。脳にきわめて細い電極を挿入し、ある部位を刺激すると、鬱症状がかなり劇的に良くなるということが知られている。さすがに長い抑うつ症状に苦しんで脳に電極をさすことを希望するという方は多くはなく、また手技には危険性も伴うために、うつ病の治療としては一般的ではないが、深部刺激のターゲットとなる視床下核(subthalamic nucleus, STN)という部位に焦点が当たり、結局そこに眠っているCSTCループに焦点が当たることとなったのだ。要するにSTNがこのループの一部をなすという。ここから先は専門家の説明。

「機能的神経疾患の原因を考えるうえで皮質-線条体-視床-皮質ループ (CSTCループ) という概念が注目されている. 大脳皮質から大脳基底核, 視床に至る経路にそれぞれ運動, 認知, 情動に関する回路が近接して存在し, 連携して活動しているという考えである. このループの機能障害が関与していると考えられる疾患として, パーキンソン病, ジストニア, 強迫性障害, トゥレット症候群などが挙げられる. これらの疾患では, 運動, 認知, 情動のどの回路が主に障害されているかで疾病としての表現型も異なってくる. 脳深部刺激療法のターゲットは, CSTCループのいずれかの部位に設定されることが多い. したがって, 運動, 認知, 情動といった機能を個々に切り離して治療することは難しい. パーキンソン病に対する視床下核の刺激により情動面の変化が生じることがあるのはよく知られている.  」 深谷親山本隆充(2016Neuromodulation: 皮質-線条体-視床-皮質ループ機能障害とその治療. 脳神経外科ジャーナル252137-142.

このループは眼窩前頭皮質、前帯状皮質、腹側線条体を含むという。ということは側坐核も含むということだ。だからこのループに情緒面が含まれないといったのは私の誤りということになる。
 このループは色々な話題を含んでいる。ここはOCDで過活動になっているという仮説があるという記載もある。またこれがいわゆるsalience network にも関係しているという説もある。これがデフォルトモードネットワークdefault mode networkと中央執行ネットワークcentral executive network の代打のスイッチングを行っている。
 何しろ世はネットワーク説が花盛りである。fMRIなどを通して見えてくるのは、脳には局所ごとに機能が分かれているのではなくて幾つかのメジャーなループ、ネットワークがあるということだ。そしてその代表が三つということになるが、このSalience networkに関連するのが、島と背側前帯状束(dACC)であるという。そしてここにCSTCが深く関連しているという。もう何のことかわからなくなってきた。ただ脳科学ではこのループに非常に大きなスポットが当たっているということだ。そうか、不安について調べ出すとたいへんなことになってくるのだ。いよいよ安易に「不安の精神病理」など書けなくなってくる。