PDの治療に関する議論は、多岐にわたるため、そのうちいくつかのトピックを取り上げることになる。PDの治療論は歴史的には1960年代にはじまるBPDやNPDの精神力動的な治療論により促進され、その後BPDの治療に関してはさまざまな取り組みがなされている。
PDに対する治療には主として二つの考え方がある。ひとつはPDそのものに対する精神療法を主とした社会心理学的なアプローチであり、もう一つは併存症に対する薬物療法的なアプローチである。前者については、様々な治療手段が試みられているが、以下に紹介するBPDに対するいくつかの手法以外には、その治療効果がエビデンスとして示されているものは多いとは言えない。
BPDの社会心理的治療(心理療法)
BPDの精神療法的アプローチは、それが洞察の獲得を目指した従来の精神分析的アプローチでは十分な効果を発揮ないという臨床的な経験から出発した。そして様々な支持的アプローチを取り交ぜた精神分析的精神療法が考案され、またそれを追うように精神分析以外の認知行動療法をはじめとする様々なアプローチが試みられた。ただしBPDで試みられた治療を横断的にみてわかることは、すべての治療はすべて特定のケースには有効であるということだ。そしてそこでの治療同盟や明確な概念的枠組みが功を奏すると見られる。そしてそれは概ね前頭前野の抑制機能の向上や偏桃体のより効果的な制御を結果としてもたらしている可能性がある(Gabbard, )
現在BPDの治療として無作為化対照比較試験 (randomized controlled trial:
RCT)による有効性が確かめられているのは、7つあるという(Gabbard)それらは以下のとおりである。
メンタライゼーションに基づく治療 mentalization-based
therapy (MBT, Bateman and Fonagy, 2009),
転移焦点づけ療法
transference-focused therapy (TFP, Clarkin et al. 2007),
弁証法的行動療法
dialectical behavior therapy (DBT, Linehan 2006),
スキーマ焦点づけ療法
schema-focused therapy (Giesen-Bloo et al. 2006),
情緒予見性と問題解決のためのシステムトレーニング Systems
Training for Emotional Predictability and Problem Solving (STEPPS, Blum et al.
2008),
一般精神科マネジメント general
psychiatric management (GPM, McMain et al. 2012),
力動的脱構築精神療法 dynamic
deconstructive psychotherapy (DDP, Gregory et al. 2010)
DBT(弁証法的行動療法)は米国の心理学者M. Linehan により開発された認知行動療法の一種であり、米国精神医学会によりBPDの治療として推奨されている。患者はそれにより能力や生きることへのモティベーションを高める。治療は個人療法とグループスキルトレーニング、電話での相談受付、コンサルテーションミーティングから成る複合的な構造で、このうちグループスキルトレーニングでは、マインドフルネス・スキル、対人関係保持スキル、感情抑制スキル、苦悩耐性スキルを高めることを目指す。
薬物療法 BPDに対する効果的な治療薬として認可されたものはない(Gabbard,369)。ただしBPDの50%が大うつ病を併発しており、その意味ではその治療は優先されるべきであろう。ただしBPDに関する脳科学的な所見も挙げられている。前頭前野の抑制制御の減弱や偏桃体の過活動などはその例である(Gabbard, 365)。そのため今後それに特化した治療法が開発される可能性はあろう。