2022年8月10日水曜日

不安の精神病理学 再考 6 

 最近FEP (Free Energy Principle 自由エネルギー原理) という理論のことを聞く。この理論が気になるのは、フロイトのリビドー論と形が似ているからである。フロイトはリビドーは発散される方向にあるとした。これは今ではあまり顧みられていない理論だが、エントロピー逓減の法則には一致している。そしてKarl Friston という数学者であり脳科学者であり精神科医である先生がこの理論を発展させたというのだ。ここで興味深いのはこの理論は少し私が考えている不安に関する理論と似ているようなのだ。ネットで拾える「理化学研究所の「神経回路は潜在的な統計学者-どんな神経回路も自由エネルギー原理に従っている-」(2022114日)を少し参考にしてみる。

私にもよくわからないが、人間は常に将来を予測しているという。そして常にサプライズとなるような情報を逓減ないし回避するという働きを持っているという。それが自由エネルギー原理というわけだ。そしてそれは私がこれまで論じてきたこととも通じる。未来において起きそうなカタストロフィーを前もって知っておくことは、それを少しずつ処理したり回避するためには必須のことである。そしてもちろんこれは人間に限ったことではない。生物一般に言えることだろう。

ここで興味深いのは、脳はサプライズを回避するという場合、体験としては苦痛や恐怖がそのサプライズということになるが、例えばうれしいサプライズはどうなのだろうか。宝くじが当たったらどうしよう、将来素晴らしい出会いがあったらどうしよう?と不安になったり、それを回避することなどあるのだろうか。

そもそも自由エネルギー原理に私が直感的に入っていけないのは、人はサプライズ(により引き起こされる不安)を減らすだけでなく、快を希求しているからである。何しろ複雑なものを構築する(エントロピーを増大させる)ことが快であったりする。その場合はエネルギーはむしろ増大してしまうのではないか? いや、私がここに書いたことは、私がこの理論を全く理解していないから浮かんでくるはずだ。ということでこの本(課題図書)The Brain has a Mind of its Own.でも読んでみよう。