2022年8月25日木曜日

不安の精神病理学 推敲 15

 さてこのような不安の脳科学的な捉え方とフロイト後期の不安の理論はある意味で非常に整合的な関係であるということだ。
 以下は岡野の仮説的な理論であるとご理解いただきたい。最近の「自由エネルギー原則」(Karl Friston)が雄弁に述べているように、私達の中枢神経は常に予測誤差の最小化prediction Error Minimization (PEM) に向けられていると言っていい。それは将来起きる出来事、その中でも特に快と苦痛に関する出来事を予測し、心の準備をして備えるということである。恐怖に対する憂慮をするという不安の仕組みは非常にこれに合致したものである。しかしそれ以外にも、将来の喪失に備えてあらかじめ心の準備をしておくという働きがある。一般に不安、痛み、喪失などの苦痛の体験を持った心は、将来それが到来することを常に予測することに心を砕く。またそれだけではない。快楽についてもそれが癒え、ドーパミン系ニューロンが快を予測しその誤差に従って作動するという研究はよく知られる。いざ実際の痛みが訪れた場合、生体はそこでの痛みを和らげることで、ホメオスタシスの乱れを防ぐ。また予測誤差を減らすことが出来るということは、事故による思いがけない苦痛を味わう可能性を低下させるのだ。

では予測とは何か。それは喪失、痛み、恐怖を仮想的に体験する。いわばそれらを表象として体験して、その痛みの大きさを査定するのである。すなわち不安とは、恐怖を想像して一瞬味わう味見foretaste なのである。ただしこれがただの味見では済まないことがある。それがPTSDなどにより生じるフラッシュバックやパニック発作である。外傷的な出来事がありありと目の前で展開するとき、それはもはや表象的ではないのだ。それは強迫神経症についても言える。そしてこれがCSTCループの病的な過活動ということになる。

さてここからどうやって結論に持って行こうか…・