2022年8月24日水曜日

不安の精神病理学 推敲 14

  不安の起源は Beard の「神経衰弱」の概念だった、という路線でこれまで書いてきた。しかしどうも気になることがある。Beard の論文はネットでダウンロードして読むことが出来るが、肝心の「不安」というタームが出てこない。あくまでも体の病気として言っている。ということは…・私は不安の概念の歴史に関して一つの発見を自分なりにしたということになるのだろうか?

不安という概念は精神医学において、一つの病名として古くから同定されていたわけではなかった。むしろアメリカの神経学者であるGeorge Beard  (1869) により提唱された神経衰弱 neurasthenia の概念が広く浸透した。これは神経過敏、頭痛、めまい、神経痛、不眠、疲労感、心気的訴えなどの複合的な症状を「神経の力nervous force の枯渇」と見なしたもので、不安に関連する疾患はほとんどこのカテゴリーに属していた(加藤敏,2011)。

ちなみにこのBeard の論文には「不安」という言葉が出てこない。あくまでも身体症状の列挙である。ということは不安という精神症状を初めて取り上げる際に、フロイトはこのBeard の概念に不十分さを感じていたとしてもおかしくない。この様に考えると、不安を精神医学の俎上に載せたのは、精神分析を創始する前の一精神科医としてのフロイトだったということにならないだろうか。