2022年8月20日土曜日

パーソナリティ障害 推敲 13

自己愛性PD
自己愛性PDに対する精神療法的アプローチはBPDの治療理論と共に発展したという経緯がある。それは1970年代よりHeinz Kohut (1971) とKernberg (1975)がそれぞれ提出したかなり異なるパラダイムの間の論争に触発された。Kohut は患者が幼少時に十分な共感を得られなかったことによる自己の断片化に注目し、共感的なアプローチの重要さを強調した。それに対してKernberg は自己愛PDが有する貪欲さと要求がましさを問題とし、それらが直面化を駆使して検討されるアプローチを目指した。前者は患者の体験の肯定的な側面により多くの注意を払い、後者はむしろ否定的な側面への直面化を重視することになる。しかし現実の治療ではこれらの治療論のいずれかに偏ることなく、患者の言葉に耳を傾け、転移と逆転移の発展を観察し、試みの介入による患者の反応に注目しながら治療を進めていくべきであろう(Gabbard, 2014, p.414)
反社会性PD
反社会性PDの治療については1970年代より有名なRobert Martinson (1974) の研究もあって、概ね悲観論が支配してきた。反社会性PD、特に純型の精神病質者の治療は精神療法においても薬物療法においても希望が持てないという意見が支配的であった。ただし反社会的特徴を有する自己愛PDや気分障害が見られる場合には症状の改善の余地があるとされる。(G,443)一般に不安や抑うつの存在は、治療効果が見いだされるサインとなるが、逆に器質的な障害、過去の逮捕歴などは治療効果があまり見られないとされる。
一般にASPDの患者は外来で通院を行う環境では自らの感情に触れようとせず、衝動を発散する行動のはけ口をすぐに見出す傾向がある(Gabbard p437)。他方では幾つかの報告では入院治療に効果があるとされる(Salekin, et al, 2010)。ただしASPDの入院治療においては厳しい治療構造やルールの順守が要求される。患者が治療構造を破壊しようとする傾向やスタッフの抱く強い逆転移感情がしばしば問題となる。そのため一般病棟にASPDの患者を入院させることには極めて強い配慮と治療的な構造が必要とされる。均一なASPDのグループ治療では互いに手の内を知っている患者同士の直面化が功を奏する可能性がある。(Raid 1985, Yochelson and Somenow 1977.)また意外なことに、ASPDの薬物治療に関しては、効果のあるものは報告されていない。しかし近年Mark Lipsey (2007)という研究者により、犯罪者の治療についての研究がまとめられ、それはそれまでの悲観論を変える可能性のあるものであった。そこでの結論が興味深い。それは適切に行われた認知行動療法は再犯率冒さない率をコントロール群の1.53倍に広げ、それはハイリスク群でより効果を発揮したとのことである。