2022年8月19日金曜日

パーソナリティ障害 推敲 12

BPDの社会心理的治療(心理療法)
BPDの精神療法的アプローチは、洞察を目的とした精神分析療法よりはむしろ、様々な支持的アプローチを取り交ぜた力動的な精神療法が試みられ、それを追って認知行動療法をはじめとする様々なアプローチが試みられている。ただしBPDで試みられた治療を横断的にみて言えるのは、それらの治療は効果としては優劣つけがたく、また概ね前頭前野の抑制機能の向上や偏桃体のより効果的な制御を結果としてもたらしている可能性がある(Gabbard, 2017)。
 現在BPDの治療として無作為化対照比較試験 (randomized controlled trial: RCT)による有効性が確かめられているのは以下のものである。
メンタライゼーションに基づく治療 mentalization-based therapy (MBT, Bateman and Fonagy, 2009)
転移焦点づけ療法 transference-focused therapy (TFP, Clarkin et al. 2007),
弁証法的行動療法 dialectical behavior therapy (DBT, Linehan 2006),
スキーマ焦点づけ療法 schema-focused therapy (Giesen-Bloo et al. 2006),
情緒予見性と問題解決のためのシステムトレーニング Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving (STEPPS, Blum et al. 2008),
一般精神科マネジメント general psychiatric management (GPM, McMain et al. 2012),
力動的脱構築精神療法 dynamic deconstructive psychotherapy (DDP, Gregory et al. 2010)

である。このうちのいくつかについて、以下に述べる。

MBT(メンタライゼーションに基づく治療)の治療の要は、患者のメンタライゼーション機能の強化である。治療者は患者の子供時代の安全な愛着の欠如への認識を持ち、明確で首尾一貫した役割イメージを保持し、自分自身と他者の行動が内面の状態により動機付けされることの理解を促進する。そしてそれにより可能な限り自己及び他者に関する多様な視点の可能性を示すのである。そのために治療者は患者の現在あるいは直前の感情状態を、それに付随する内的表象とともに示すことを試みる(Bateman and Fonagy, 2004)。

TFP(転移焦点付け療法)はOtto KernbergのBPD治療概念に基づき、心的表象は内在化された養育者との愛着関係に由来し、治療者との間で再体験されるものとする。主たる治療技法は、患者と治療者との間で展開する転移関係の明確化、直面化、解釈である。週2回行われる個人療法は、治療契約と明確な治療の優先順位に基づいて構造化された枠組みを持つ。

DBT(弁証法的行動療法)は米国の心理学者Marsha Linehan により開発された認知行動療法の一種であり、米国精神医学会によりBPDの治療として推奨されている。患者はそれにより自らの能力や生きることへのモティベーションを高める。治療は個人療法とグループスキルトレーニング、電話での相談受付、コンサルテーションミーティングから成る複合的な構造をなし、このうちグループスキルトレーニングでは、マインドフルネス・スキル、対人関係保持スキル、感情抑制スキル、苦悩耐性スキルを高めることを目指す。

薬物療法 BPDに対する効果的な治療薬として認可されたものはない(Parker, Naeem,

2019)。ただしBPDの50%が大うつ病を併発しており、その意味ではその治療は優先されるべきであろう。ただしBPDに関する脳科学的な所見も挙げられている。前頭前野の抑制制御の減弱や扁桃体の過活動などはその例である(Gabbard, 365)。そのため今後それに特化した治療法が開発される可能性はあろう。