先日の部分、少し書き改めた。
不安に関しては、神経学的な研究が進み、それらの知見を基にして不安を恐れfear と心配 worry とに分けることが提案されている。Stahl は不安と心配が異なる神経ネットワークに関係しているとする。
● Fear 恐れ 扁桃核中心のサーキット
● Worry 心配(これから起きること)皮質線条視床皮質ループ(CSTCループ)
また心配に関わるCSTCループとは皮質-線条体-視床-皮質ループ cortico-striatal-thalamo-cortical loop のことであり、機能的神経疾患の原因を考えるうえで最近注目されている神経ネットワークである。大脳皮質から大脳基底核, 視床に至る経路にそれぞれ運動, 認知, 情動に関する回路が近接して存在し, 連携して活動しているという。このループは、運動サーキット、連合サーキット、辺縁サーキットの三つが組み合わさっている、という説明も見られる。これらのどれかの異常により機能障害が関与していると考えられる疾患として, パーキンソン病, ジストニア, 強迫性障害, トゥレット症候群などが挙げられる. これらの疾患では, 運動, 認知, 情動のどの回路が主に障害されているかで疾病としての表現型も異なってくる。ちなみに最近注目されている脳深部刺激療法のターゲットは, CSTCループのいずれかの部位に設定されることが多いという(深谷、2016)。このループは眼窩前頭皮質、前帯状皮質、腹側線条体(側坐核)を含むという。すなわち情動面のかかわりもより深いことになる。
深谷親, 山本隆充(2016)Neuromodulation: 皮質-線条体-視床-皮質ループ機能障害とその治療. 脳神経外科ジャーナル25巻2号137-142.
ちなみにCSTCループの研究の発端の一つは、いわゆる「脳深部電気刺激」である。そして深部刺激のターゲットとしては視床下核(subthalamic nucleus, STN)を含む CSTCループのどこかの部位が選ばれることが多いことから、このループに焦点が当たったのである。
ここはOCDで過活動になっているという仮説や、いわゆるsalience network:SN にも関係しているという説もある。SNはデフォルトモードネットワークdefault mode network と中央執行ネットワーク central executive network の代打のスイッチングを行っている。このSalience networkに関連するのが、島と背側前帯状束(dACC)であるという。そしてここにCSTCが深く関連しているというのだ。
Peters, S K. Dunlop,K
and Downar, J:
:Cortico-Striatal-Thalamic Loop Circuits of the Salience Network: A Central Pathway
in Psychiatric Disease and Treatment Front. Syst. Neurosci., 27 December
2016
https://doi.org/10.3389/fnsys.2016.00104
このCSTCループは、前頭葉から出るフィードバックループである(Stahl,395)。これが機能しないとそれが過活動を起こし(Stahl,p398)、同じ思考を何度も繰り返すことになるが、それが心配やOCDやうつ病で見られる現象であるという。そしてここをつかさどるモノアミンの中でも最も重要なのがドーパミンであり、その代謝に関係するCOMTのジェノタイプにより物事に動じないwarrier か、くよくよ悩む
worrier かに分かれるのだという。
つまりこういうことだ。生物学的に見ても、不安は二層構造をしている。中核に恐怖があり、それを恐れる不安がある。