2022年7月7日木曜日

パーソナリティ概論 8

 病態論の最初の部分。30年以上前に買ったアッカークネヒトの「小精神医学史」をここで引用することになろうとは思わなかった。PDFにしておいてよかった。

1 概念と病態

パーソナリティ症〈パーソナリティ障害〉(personality disorder)についてDSM-5は以下のように定義している。「その人が所属する文化から期待されるものから著しく偏り、広汎でかつ柔軟性がなく、青年期又は成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛又は障害を引き起こす内的体験及び行動の持続的様式である(DSM-5)」。そしてそれは認知(ものの捉え方や考え方)、感情のコントロール、対人関係といった種々の精神機能の偏りから生じるものである。パーソナリティ障害は、基本的には生来の気質に様々な環境因が及ぼされることで形成されると考える。このようなとらえ方はPDの本質についての議論を概ねを網羅していると考えられるが、この概念の辿った歴史は長く、紆余曲折が見られた。

 19世紀にはフランスのBenedict A Morel (1852-1853) やその弟子Valentin Magnan (1886)などによって,心的変質論 dégénérescences mentales)が展開された。それは広い範囲の精神障害や病的状態と関わる遺伝的特質や体質的異常のためであるとし、一部の人々の示す異常な行動を親から子に遺伝しながら障害としてとらえた。これは解剖学的には変化のみられない精神疾患を病因論的に分類するという試みであり、当時全盛だったダーウィンの進化論と深く結びついていた(アッカークネヒト、p65)。その考えは J-M Charcot に至るまでフランスの精神医学界を席巻した。ここはH. Ellenberger (1980) を引用する。

Ellenberger, H. (1980) Discovery of Unconscious「無意識の派遣―力動精神医学発達史 上 木村敏・中井久夫監訳 弘文堂 1980