2022年7月3日日曜日

治療者の脆弱性 推敲 4

  そしてそこで結局一番何が見えにくいかということで問題となるのが、自己愛的な脆弱性という問題が出来ます。一番見えない脆弱性としての「自己愛性脆弱性 narcissistic vulnerabilityあるビニエットを紹介します。どこかに書いたかもしれません。
 ある精神分析家がセッション中に居眠りをしてしまい、手の力が緩んで持っていた鉛筆が床に落ちてカラーンと落ちてしまった。患者は「寝ていましたね」と言い、治療者はとっさに「そんなことはありませんでしたよ」。そしてそれ以上は決して自分の立場を譲らなかったそうです。その分析家の慌てぶりから、おそらく彼女はふと眠りそうになったことを否認しているのであろうと感じられたと言います。それで患者はかなり分析家を信用できないということが続いたということでした。
 私がはるか前に翻訳した「ある精神分析家の告白」という本の作者であるドクター・ストリーンは、一度話してくれたことがある。治療者として患者の前で居眠りするということは自分のプライドが許さないと言っていました。
 以上をまとめると「逆転移の問題は常に「靴のつまみ bootstrap」問題をはらむ。治療者はいか様にも自分の自己愛脆弱性は最後の最後までしとおすことが出来るからだ」ということで、そのために治療者は「外部」ないしは「他者」の目を必要としているということです。ただし私は治療場面においても外部性は常にあるのだと思います。それはお互いの存在と言ってもいいでしょう。自分を持ち上げるためには他者を足場にするしかない。それを避ける一つの方法は、ある意味で患者との対等な位置を築くことである。一つの例として、ビーズの稲葉氏が語っていたことがあります。

 B’Zの松本孝弘と稲葉 浩志との関係。二人がどうしてうまく行っているのか。相手が全然予想もないことを言ってくるからだそうです。つまり他者であること。そしてそれを受け入れること。これが大事らしいのです。