Abraham, K (1953)は,精神性的発達の停止と関連づけられた性格論(口愛性格,肛門性格) を提示した。そして口愛性格に関してはリビドーが口愛期に固着すると、情緒的な依存性や口愛的な嗜好性(食物・喫煙・飲酒)を有する性格を得るとした(Abraham, 1924)。土居はそれを「いつも相手に期待し、何事についても誰かが自分の為にお膳立てしてくれるものと決め込むタイプ」としている。(精神分析事典、項目「口唇性格」)
Abraham, K:The influence of oral erotism on character formation.
In. Selected Papers of Karl Abraham. Hogarth Press and
Institute of psycho-analysis, London, 1927, 前野光弘訳 「性器的」発達段階における性格形成 アーブラハム論文集
- 抑うつ・強迫・去勢の精神分析. 岩崎学術出版社, 1993.
それらの議論を引き継いだ Wilhelm Reich は性格分析という概念を提出し、それが個人にとっての防衛となっているという考えを新たにした。彼は schizoid, oral, psychopathic, masochistic, hysterical, compulsive, narcissistic, or rigid などの性格構造について論じた。
Reich, W. Character Analysis
(Chapters I-III), 3rd,
enlarged edition, (1990)
Guntrip, Harry Personality Structure and Human Interaction, London: Hogarth Press, (1961) quoted in Boadella, David (1985) Wilhelm Reich: The Evolution of His Work, London: 54.
精神分析的なPD論が一つの隆盛を見せたのは言うまでもなく全盛期半ばより始まったBPDに関するものであった。それは一見神経症圏にあるものの精神分析治療の適応となりにくい一群の患者がHoch, PH (1949) と Polatin P. や Robert Knight (1953)により見いだされたことに始まった。そして1970年代以降Kernberg によりその精神分析な理解やそれに基づく精神分析的精神療法が論じられるようになった。とくにKernberg のまとめた「境界パーソナリティ構造」の概念は、他の様々なPDを含んだより広い上位概念であるといえる(Kernberg, 1967福井P21)。そして同時にGunderson(1975) ,Grinker (1968) らは精神医学的な症候学や疫学の見地からBPDをとらえようという立場を生んだ。これ以降BPDはPDのいわば代名詞としての位置づけを得ることとなった。これらの議論を取り込んだ形でなお精神分析的な色彩の強いDSM-Ⅲが1980年に成立したという経緯がある。
Gunderson, JG, Singer, MTDefining
borderline patients: An overview. American Journal of Psychiatry, 132;1-10. (1975)
Grinker RP, Werble, B,
Drye, RCThe borderline Syndromes: A Behavioral Study of Ego-function. New York,
Basic Books. (1968)
その流れて言及されるべきなのは、米国において1970年代より盛んに論じられるようになった性的身体的トラウマと精神疾患の関連であった。その中でもJudith Herman による複雑性PTSDの議論はICD-11でのCPTSDの採用に繋がったが、そこで論じられたのは、幼少時ないしは繰り返し体験されたトラウマが人格形成に及ぼす深刻な影響であった。
Herman, J.L (1992) Trauma
and Recovery. Basic Books. New York. 中井久夫訳(1999)心的外傷と回復. みすず書房
Herman, J.L. Complex PTSD: A syndrome in survivors of prolonged and repeated
trauma Journal of Traumatic Stress. 5; 377–391. (1992)
Kernberg, O.: Borderline Personality Organization. J Am Psychoanal
Association 15, 641-685. (1967)
Kernberg, O.:Severe Personality Disorders:
Psychotherepeutic Strategies. Yale Univ Press (1984)西園昌久 (訳)重症パーソナリティ障害―精神療法的方略. 岩崎学術出版社. (1997)