2022年6月7日火曜日

精神科医にとっての精神分析 4

 そこで注目されるのが、「治療機序の主要な様式は、患者が分析家の心の中に自分自身を感じ取ると同時に、自分とは異なる分析家の主体性を感じ取る能力を獲得することである。」(Gabbard (2003), Rethinking therapeutic action, p825. ということです。要するに心の動かし方を両者の間で実践するという所があります。
 これは具体的にはどういうことでしょうか?実はこれは乳幼児の発達プロセスと同様のことを言っているわけです。発達早期に赤ん坊は母親との交流の中で、母親の中に自分を見つけるという作業をします。しかしその作業は同時に、母親が自分の投影の産物に留まらないという事実を発見します。母親は独自の主体性を持った他者であるということに気が付くわけです。それと同様のことが治療でも起きるわけです。患者は治療者の目に自分がどの様に移っているかを見ることになります。しかしそれだけではなく患者は治療者が独自の主体性を持った他者であるということを理解します。これは転移逆転移関係のことを言っていると同時にそれを愛着のプロセスにも重ね合わせることが可能なように言い換えたものです。言い換えればこの母子関係においてやり残した部分、あるいはそれが破綻しつつある部分を治療者と患者の関係性の中でやり直すというニュアンスがあります。そして最近精神分析でもとても重要なコンセプトが用いられるようになりました。それがメンタライゼーションです。これはピーターフォナギーとアンソニーベイトマンにより練り上げられた概念であり、要するに相手の心の中で、あるいは自分の心の中で起きていることを理解し、可能な限り言語化していくというプロセスです。さてではそのようなメンタライゼーションのプロセスにおいて具体的に扱われるものはどのようなものなのでしょうか?