2022年6月8日水曜日

精神科医にとっての精神分析 5

 私は特にFonagy らの言う not-knowing という問題が重要であると考えます。そしてこれは Bion のマイナスKとも関係しています。2019年に Fonagy らが、not-knowable stance(分かりえないというスタンス) という呼び方に変えたいと言っていたという話もあります。ここで一つ言えるのはメンタライゼーションはこの不可知性ということを強調することでポストモダン的であるということだ。ポストモダンは一つの正解があたかも実在するといういわゆる実証主義 positivism の立場を取らず、むしろ不可知論であるということです。一見「人の気持ちを分かること」という分かりやすい言葉に置き換えることが出来るメンタライゼーションは、実は人の気持ちがわかるということがいかに多層に及び、幅広い心や脳の機能についての議論を巻き込み、答えを一義的に見出すことが不可能な、その意味でいかに「分かりえない」のかということを、Fonagy たちは伝えようとしているのです。

さてここからが無意識の問題です。通常の精神分析的精神療法では当然のごとく扱うはずの無意識を、メンタライゼーションでは少なくとも同じようには論じないといいます。しかしそこが G.Gabbard 先生の違う所で、そこからがこの現代的な精神分析の神髄なのです。そしてそこで重要になるのが、無意識的な連想ネットワーク unconscious associative networks UAN)という考え方です。現在の認知科学が強調する潜在システムと顕在システムが機能的に、そして神経解剖学的に異なるシステムであるという考え方は、フロイトの意識と無意識の区別と一致しています。そこで治療のゴールとなるのはいかにUAN変更を加えることが出来るか、ということです。