2022年6月15日水曜日

治療者の脆弱性 4

脆弱性と逆転移の問題
 私が精神分析理論を学び始めて最初のころから疑問を持ち始めていたのは、逆転移の理論である。フロイトは逆転移は厄介な障害になるものとみなされ、転移の様相をゆがめてしまわないように適切に調節され、訂正されなくてはならないと考えたという(Karl Menninger, 精神分析技法論. p.107)それから逆転移はそれを反省することで用いられる、価値あるものとされるようになた。私が引っかかるのは、本当に用いられるようになるのか、ということである。「逆転移は起きても仕方がない。それを反省材料にすればいいのだ。」は一種の免罪符のようなものにも聞こえる。メニンガ―は逆転移を示すものとして、過度にやさしくしていないか、などを挙げた。しかしそのようなことだったらまだ見つけやすいかもしれない。しかし一番発見しにくいのは治療者の自己愛憤怒なのである。
  ここでひとつ架空の例を考えよう。分析家ドクターAは経験豊富な精神分析家である。しかしある弱みを抱えているとしよう。それは自分の「人の気持ちを汲み取れない」のではないか、ということにしよう。彼は精神分析をとても愛しているし、フロイトをひそかに心の中でヒーローに思っている。心の探求をする精神分析家に憧れて辛いトレーニングをしにわざわざアメリカにまでわたって修行を続けたとする。そうしてようやく精神分析家の資格を得た。その間に結婚もしたし子供も出来た。精神分析のトレーニングでも幸いケースは続いた。しかし時々妻から言われる。「あなたはとても頭がいいけれど、人の気持ちが分からないところがある。」「 え?」と思う。しかしもしかしたら、とも思う。
<以下省略>