2022年5月12日木曜日

他者性の問題 96 攻撃者の内在化の図の説明の追加部分

 こうして攻撃者との同一化が起きた際に以下のような図(図2)としてあらわされる。被害者の心の中に加害者の心と、加害者の目に映った被害者の心が共存し始めることになる。この図2に示したように、攻撃者の方は攻撃者との同一化のプロセスで入り込み、攻撃者の持っていた内的なイメージ(薄緑の小さなマル)も同様に入り込む。


図2
この図示でのポイントは、子供の心(S)と取り入れられた攻撃者、およびその攻撃者が持っていた子供の内的イメージが、子供の脳内で交流ないしはやり取りを行うことである。このように考えると、例えば子供が行う自傷行為なども比較的説明がしやすい。それは主人格である人格Aが知らないうちに、非虐待人格が自傷する、あるいは虐待人格が非虐待人格に対して加害行為をする、という両方の可能性を持っているのだ。時には主人格の目の前で、自分のコントロールが効かなくなった左腕を、こちらもコントロールが効かなくなっている右手がカッターナイフで切りつける、という現象が起きたりする。その場合はここで述べた攻撃者との同一化のプロセスで生じる3つの人格の間に生じている現象として理解することが出来るわけだ。 
さらに興味深いのは、Sが知らないうちに、その脳内で取り入れられた攻撃者と子供の内的対象像が継続的に関係を持っていることの持つ意味である。両者の人格のかかわり、特にいじめや虐待については、現在進行形で行われているという可能性があるのだ。この攻撃者との同一化のプロセスによりトラウマは決して過去のものとはならないという可能性を示しているのだろうと考える。 ただしこの内的なプロセスとしての虐待は、この黒幕人格がいわば休眠状態に入った時にそこで進行が止まるという可能性がある。その意味ではいかに黒幕さんを扱うかというテーマは極めて臨床上大きな意味を持つと考えられるであろう。