2022年5月9日月曜日

他者性の問題 93 ポリヴェーガル理論に追加記載

 この様に自律神経系統はトラウマ体験やそのフラッシュバック、解離症状などに深く関与するが、それは「転換症状」に含まれるわけではない。前章で見たとおり、転換性障害に関わるのは、「身体感覚と運動の統制」に関する障害である。すなわち五感と身体感覚、そして随意的な運動という、私たちが意識化し、制御できる感覚や運動という事になる。そしてそれは自律神経系を基本的に含まないという事になる。なぜならそもそも自律神経は私たちの意図的なコントロールを逃れて、あたかも自分たちで「自律的に」振舞うからである。

この様に考えると実は自律神経系はすでにその名前も含めて機能そのものが他者性を帯びていることがわかるであろう。ただし通常私たちはそれを他者性と考えるよりは、むしろ私たちの無意識による身体のコントロールと言い直すことも出来よう。すると身体をコントロールしているのは私たち自身(ただし意識されない部分)ということになる。すると身体は私たちの思考や感情を象徴的に表しているというおなじみの精神分析的、力動的な理解の仕方を促すことになる。この点は臨床上極めて重要ともいえる。

ある中年男性の管理職にある方は職場で多くのストレスを抱えていたが、朝出勤しようとワイシャツの袖に手を通そうとした瞬間に、体全体が鉛のように感じられて動けなくなったという。これは身体という他者が仕事に行くことを拒否したという考え方を取ることもできるが、その男性が無意識的に会社に行くことを拒否したという考えも成り立つ。ただし解離における他者性を念頭に置いた考え方と精神分析的な考え方の違いの臨床的な表れについては、すでに○○章で触れたので、ここでは繰り返さないことにしよう。