Charcot はその意味ではそれまでは詐病扱されていたヒステリーを医学の俎上に載せたという功績があった。歴史上はじめてヒステリーが正当に扱われたのである。そしてここにはそれが疾病や障害として扱われることが差別からの解消であったという事になる。ただしそれでもCharcot は「結局ヒステリーはいつも、性器的な問題なんだよね」という言葉を残して、一種の偏見の根を絶やさなかったことも知られる。
解離性障害が障害としてみなされない問題にはもう一つの文脈があった。それがPTSDや戦争神経症の処遇である。これも一種の「仮病」として扱われるという時代が長く続いたのだ。そしてその根底にあるのが疾病利得の問題であった。疾病利得とは病気になることで患者自身が得るものであるが、Freud
はそれを一時的なものと二次的なものに分けた。このうち二次的なものとは傷病手当や保険金や、戦場に赴くことの回避などであり、周囲の目にもその人が病気になることでそれらを得ていることは明らかなものである。第一次世界大戦では、ドイツ・オーストリア軍に戦争神経症が多発していたが、それは詐病と見なされ、電気刺激により罰したという。しかし戦場ではやはり戦争神経症が再発したという。これについて Freud はこう述べている。「すべての神経症患者がある意味において仮病を使っているという一般論としては、戦争神経症の患者も仮病を使っているという意見に同意できるが、それは意図的な仮病ではなく、無意識的にそうなのであるという点がいわゆる仮病とは違うのです。」