2022年4月22日金曜日

他者性の問題 76 昨日の続き

  Putnam はこの論文で「状態変化」障害 state-change disorder という概念にまで言及して、そこには双極性障害やMPDが入るとする。そしてそれが乳幼児に見られる意識状態state of consciousness に発想を得ているとする。そしてそれは「繰り返され概ね安定した 生理的な変数群や行動群のパターン群の付置constellation Prechtl, 1968, p.29 A constellation of certain patternsepeat themselves and which appear to be relatively stable)」としてもっともよくあらわされるという。

Prechtl, HFR Theorell, K, & Blair, AW (1968) Behavioral state cycles in abnormal infants. Developmental Medicine and Child Nuurology, 15, 606-615

 ただしこのような状態が成立しない場合があり、それがトラウマであるとする。トラウマは大抵幼少時に起こり、それが早期からのこのような状態間のスムーズな移行を阻止する。そして情緒的に高まった状態で解離的な状態に入り込むことがその人にとって適応的となるのだ。そしてその機序は詳しくはわからないながらも、それが交代人格として成立していくとする。

ちなみにK.Forrest (2001) はこのPutnam の理論をさらに引き継いだ論文を書き、この

理論がDIDの生物学的な基盤となりえることを主張している。 

Forrest, KA (2001) Toward an etiology of dissociative identity disorder: a neurodevelopmental approach Conscious Cogn 10:259-93.

  Forrest によれば、現在のところ、解離に関してもっとも有効な理論は、Putnam DBSであるという。しかしその背景となる生物学的なメカニズムは説明されていないという問題があるとする。彼は人間が自己の異なる部分を統合する機能として眼窩前頭皮質OFCを含む前頭前野を挙げている。人が持つ幾つかの機能を、同じ人の持つ複数の側面としてとらえ、「全体としての自分Global Me」を把握する際にこの部位が機能するという。そしてそれが低下すると、多面的な存在が個別なものとして理解され、Aさんという自己の異なる側面がAさん、A’さん、A’’さん・・・と別々の人として認識してしまう。これが自己像に対して行なわれるというのが彼のDIDの生成を説明する理論の骨子である。

 ちなみに私はこれはDIDの本質を捉えていないような気がする。この体験では自己像がいくつかに分かれる、という説明にはなっても、心がAに宿ったり、A’に宿ったりという、複数の主体の存在を説明していないように思えるのだ。