2022年4月21日木曜日

他者性の問題 75 Putnam の理論について追加

Putnamの離散的行動モデル
 ここでこのPutnam 先生の議論の背景にある離散的行動モデル(discrete behavioral model, 以下DBM)について少し見てみたい。
 Putnam(1997)はこのDBMで、人間の行動は不連続的で、一群の状態群の間を行き来することと捉えている。DIDの交代人格もその状態群の中の1つであるとする.交代人格という状態は,その他の通常の状態とは違い虐待などの外傷的で特別な環境下で学習される.そのため,交代人格という状態とその他の通常の状態の間には大きな隔たりと,状態依存性学習による健忘が生じると考える.
Putnam, FW (1997) Dissociation in Children and Adolescents: A Developmental Perspective. Guilford Press: New York. 中井久夫(訳)解離―若年期における病理と治療 みすず書房、2001 pp194-203
Putnam(1997)にとって精神状態ないし行動状態とは,心理学的・生理学的変数のパターンから成る一つの構造である.そして,この構造は実はいくつも存在するのだ。つまり人間の行動においてはそれらは頻繁に移行しつつ成立していることになる。Putnam はWolff, PHなどの乳幼児研究をもとにしている(Wolff, 1987, 野間2021)。乳幼児は静かに寝ているノンレム睡眠時が行動状態Ⅰ,寝てはいるものの全身をもぞもぞさせたりしかめ面,微笑,泣きそうな顔などを示すレム睡眠時がⅡ,覚醒しているが不活発な状態がⅢ,意識が清明で活動的なⅣ,そして大泣きしている状態が行動状態Vといった具合になる.
Wolff, P. H. (1987). The development of behavioral and emotional states in infancy. Chicago: University Chicago Press.
野間俊一 解離症における諸理論(2021)講座精神疾患の臨床4 身体的苦痛症候群、解離症群、心身症、食行動症または摂食症群.中山書店.

 Putnam の考えの特徴は、人間のこれらの状態像は離散的、つまり孤立しているが、それらの間を行き来(スイッチング)し、普段はその行き来のための時間が短いためにその時その時で適応的に状態像を変えて日常生活を送り、しかもそれらは健康な状態では全体として統合されていると考えたことである。
ただし被虐待児などの場合は,不安や恐怖を特徴とする特別な行動状態群が形成される.虐待エピソードのような恐怖に条件づけられた行動状態は,血圧・心拍数・カテコールアミン濃度などの自律神経系の指数の上昇といった生理学的な過覚醒と連合している.そしてその不安や恐怖の強い行動状態に留まることが多く、また全体の連続性は統合性も失われる。上記Ⅰ~IVの行動状態を“日常的な行動ループ”とすれば,虐待エピソードで獲得された状態群は独自の性質をもつ“外傷関連の行動ループ”といえよう.