岡野 一番困るのは、解離が起きているらしいことを主人格さんににおわすと、それだけで来なくなってしまうという場合ですね。場合によっては別人格さんが出て来ている時の声を録音して、聞いてもらうみたいなことももし可能だったらすることがありますけれど、ビデオだったらもっと強烈ですよね。「エーこんなだったんだ!自分でもびっくりした」みたいな反応が聞かれることがあります。
S山 解離性けいれんの人はお母さんが発作中に撮って、それを本人が見てもあまり驚かないですね。でも人格交代だとかなり驚くんでしょうね。
岡野 はい。そしてもう一つのご質問です。「私は臨床心理士ですが、交代人格さんと出会い、どのようにお呼びしたらいいかわからないことがあり、でもその方を尊重するという意味で『~さん』、とお呼びしています。いつか治療の方向性を話すうえで、部分という言葉を使ったのですが、その人格さんが後で出て来て、『部分と言われてしまった!』と不満をおっしゃっていました。」はい。それともう一つ質問が来ました。「DIDとの治療をどのように進めていくかについて、計画を立てる必要があると思います。その際に主人格や交代人格と信頼関係を結び、ある特定の人格との間での継続面接が出来るようにする必要があると思いますがどうでしょうか?」N間先生からいかがでしょう?
N間 ハイ、主人格か交代人格かと意識せずに信頼関係を作るのは大事だろうと思いますよね。主人との信頼関係が出来ると、必ず副人格が出てきます。あのそういう意味ではこの人からまず攻略してみたいなイメージではなくて、まあ全体と会って行こうかなと言う気はしますね。そして私自身もパーツ派だと自分で言いましたけど、あの説明の時だけちょっと使うぐらいで、後は「何々さん」という形をしてますもちろん説明ですかっても怒られるのかもしれませんけれど。それと解離が出ているという事は、多重人格をどうしていくかということよりも、その人の置かれてる状態が非常に不安定という危険にさらされていて、現在かあるいは過去の記憶のせいかもしれないけど不安な状況だということがまずベースにあるので、そういう安心感をどのように持ってもらえるか、という治療環境の問題についてまず第一に考えます。そこからパーツというか、人格を扱って行くみたいなことになっていくんだろうという風な気がしましたのでお伝えしました。
S山 僕は一般的なDIDの治療法はちょっと置いといて、さっきの誰から行くかっていう問題については、N間先生とほぼ同じで、どうせみんなこの会話を聞いてるだろう、という感じで接してるので、どんな人から、というイメージあんまりないですよね。
岡野 そもそもアポイントメントを取って治療に来た方を、私は一応幹事役、という言い方をしていますが、セッションの最初にその人と話したり、終わる時はその人に出てもらうという風にすることも私はあります。私の患者さんで、「私がここに来るのを決めてアポを取ったのに、いつも子供ばかりが出て、私は何も治療の内容を覚えていないんです。私の治療はどうなっているんですか!」と怒られた方がいます。毎回子供が出て来て遊んで終わり、みたいな。
O田先生 あの自分のその臨床の中で交代人格といかに出会うかっていう人のことがちょっと整理しきれてないのでお聞きしたいんですけども、今までの話の中にも出てきてはいるんですけど、そのいかに出会うかという事について、基本的に二つか三つ考え方があると思うんですね。一つはやっぱあくまでも主人格を通してできるだけ主人格を通しての話をしていくんだと。だから臨床家がその交代人格と出会うときも直接働きかけはできるだけしない、そうすることはむしろ治療的にはマイナスなんだから、という考え方です。まあそれはパーツっていう考え方に乗っ取っているのかもしれないけども、いずれにしてもできるだけ主人格を通して、こんなことを聞いてみてくれませんかと、先ほどの岡野先生の話にもそういった質問をなさった方がいらしたと思うのですが、もう一つは、今日の先生方のお話にありますように、治療としてはむしろ交代人格のそれぞれに必要に応じて直接敬意を持っていて出会ってく、それがより治療的なんだって言うそれがもう一つの立場で、今年岡野先生のEMDRでのお話を聞いて私もそう考えるようになっているのですが、交代人格の一人一人に必要に応じて会っていくという立場です。そして三番目は両方がありだよね、あとはケースバイケースでやって行けばいいであろうと。