2022年4月17日日曜日

他者性の問題 70 対談の文字起こし 7

S山 普通の神経症の方なら交代人格はいないわけですから、根掘り葉掘り聞く必要もないわけですが、DIDであれば奥の方に隠れている人格に会う必要があるわけです。その影響で症状が起きているという場合があるので。今のシステムでは手一杯なので、表出するように導かなくてはならない人格がいるために、そのためのアセスメントが必要になると思います。要するにケースバイケースですね。
N間 交代人格が日常的に出てくる場合は、治療の中で交代してもらうことはありますが、またAさんに戻った場合に何も覚えていないと、治療が進まないと感じられることがあります。するとこちらの知識は広がっては行くけれど、それだけでは十分でないという事になります。その場合自我状態療法だとBさんに近づくという事があり、先ほどの岡野先生のお話にもあったように、あくまでAさん主体で、AさんからBさんにアプローチをしてもらうという事だと思います。ただAさんがBさんを全く受け入れない場合、Aさんは情報共有をするだけの心の準備が出来ていないと判断して、他の人格とただただ会うという事になるかな。だからAさん主体でやっていますけれど、場合によっては、それではまだろっこしいから、交代させてください、と言う人もいらしたりします。でも基本はAさん中心に会っています。
岡野 Aさんがある程度仕事が出来て、信頼がおけて、色々な能力を備えているという場合は、Aさん中心で話が出来ると思います。しかし全く利害が対立する人格だと、その人と話をしていても治療が進まないな、と思います。
O田 すると総合的に考えて、Aさん中心とするか、それ以外の人格に焦点を当てるかという事をケースバイケースで判断していくという事なのでしょうか。
岡野 そうですね。やはり全体的な利益という事を考えて。
S山 あとですね。私はAさんやBさんと交流することで色んな全体像が見えてくるような面接にしたいんですね。診断の面でもあるいは記憶の面でもその全体像が見えるようにしたいので、その全体像を見るために A さんが主体でなくてもその A さんと僕がその場を作るっていうかね、その場にいろんな情報を提示して二人で考えていく。その場を大事にするんですよ、誰と話すか、ということよりも。Aさんと話していても、こんなことが起きましたね、あんなことも起きましたね、と話すことで全体像が見えてくるような。
岡野 ちょっと先生方にお尋ねしたいのは、結局交代人格はどこから来ているのか、という事ですよね。結局これがわからない。その意味では私は交代人格は「他者」だと思うのですが、河合隼雄先生が 「夢で残酷なXさんが出てくるとき、X は私の中に生きていると言うべきである。私にも残酷なところがあるなぁと考えるのではなく、残酷な人間が生きている、住んでいる、しかもそれは私の支配に屈しない自立性を持っていると考えるべきである」と書いています。河合先生は夢の中で出会う人のことを言っているのですが、これはDIDにも言えると思うのですが。これは精神病理をやっている先生方、どうでしょう?
S山 それは、両方ある、ということじゃないですか。自分であって他者であるという両面性。
N間 私は河合先生はうまい言い方をしているなあと思って聞いていました。先ほどの攻撃的な人格の話では、貴方の中にそういう所があるのかな、というと言いましたが、そう言い方をしないという事ですね。そういうとあなたに残酷なところがあるという事になりますから。その人が傷つくことにもなるし。受け入れられないかも知れないし。その意味で治療的には河合先生の言い方がありかなあ、と思いました。ただ実際にどこから来たのかについては、本当に分からないですね。ある患者さんがどうやら夜中に誰かが出ていて、昼間眠くてしょうがないという話になって、夜出なくてはいけない人格がいたのでしょうか、と話すと、実は昔借金の肩代わりをさせられて、夜中にずっと働いていたことがありますという話が出てきたりします。やはり別人格が何らかの意味でその人の人生に意味があることもあるでしょう。まあ幾つかの人格を調べていくと、それぞれの人格が出てきた時期に、それぞれ外傷体験があるという事がわかったりすることもありました。ただ一方でその本当に岡野先生のおっしゃる黒幕人格というものであったりあるいは子供人格は必ず出てきますよね。もちろん子供の時トラウマ多いというのもあるのですが、必ずみんなに出てくる人格っていうのもあって、そこで河合先生からの連想ですけれども、まあ個人的な無意識と普遍的無意識があるとしたら個人的人格と普遍的人格があるのではないか。何か個別の生活しで同定はできないけれども何か大きな役割を持つような人格というのはありそうな気はします。そのことと岡野先生のおっしゃる「他者」という事とイコールかどうかちょっと分からないですけれど。