2022年4月2日土曜日

他者性について その55 離断脳と二重人格について

左右の脳は他者どうしである
 そしてひょっとすると左右の脳は他者同志である可能性があるというお話をここで私が持ち出すと、皆さんは混乱するかもしれませんが、これも事実なのです。いわば私たちはみな二重人格であるという可能性があるのです。皆さんは離断脳の実験というのを御存じでしょうか? 実験的に左右の脳を切り離された人は、左脳と右脳で別々のことをしてしまうという事があります。右手でボタンをはめようとして、左手で外そうとするといった行動を見せることになります。あるいは人の首を右手で絞めて、左手でそれを外そうとするという事が起きます。
 この図は大脳を左右に押し広げて脳梁という部分を露出したものです。私達の脳は左右一対で出来ており、左脳と右脳はほぼ対称をなしています。そしてその間を三億本ともいわれる神経線維、いわば信号を行き来させるケーブルが通っています。それが脳梁です。
 この部分が脳梗塞や脳出血などで破壊されると、左右脳の情報の交換が出来なくなり、左右の脳はいわばバラバラに動き出す可能性があります。そして一部の患者さんに診られるのがいわゆる「他人の手症候群 alien hand syndrome」 と呼ばれる状態です。これは比較的希な症状であるが、一つの手が自分の意志に逆らって勝手に動き出すという症状を示します。一般的には拮抗失行と呼ばれ、右手が随意的、意図的な行動を行おうとすると、左手がそれに関係ない、あるいは拮抗する動きを見せるのです。
(現代精神医学事典 加藤敏、神庭重信その他編 弘文堂 2016年)
この分離脳の状態は難治性の癲癇の治療のための外科手術により結果的に生じることもあります。ただしこの脳梁の部分に麻酔薬を注入することで、この離断脳状態を一時的に人工的に作ることが出来ます。そして同様の症状をいわば実験的に再現することが出来ます。
 これはちょうどDIDの患者さんにもみられる可能性のある行動ですが、これほど右脳と左脳は異なった意思を持つにもかかわらず、私たちは普通矛盾した心を一つの統一体として経験しています。だから一方で相手に愛想笑いを浮かべて、他方では憎しみの感情を味わうというアンビバレントな体験を受け入れるのです。それは私たちは自分の中で起きたことは、自分のものであるというタグをつけることで外来のものと区別するからです。