突然だが、嗜癖に出てくる liking
and wanting の問題についてちょっと調べなくてはならない。いろいろ準備しているのだ。この問題は要するに、嗜癖が生じると好きでもないのに辞められないという現象だ。よく聞くではないか。タバコを止められない人は、吸っていても決しておいしくないと。あるいはあるパチンコ中毒を体験した人が言っていた。「朝早くから良い台を取って玉をはじき続けるんです。」私が「どんな気分ですか?」と尋ねると「最悪ですよ。楽しくもなんともない。でも止められないんです。」えー、と思うではないか。好きでやっているんじゃないんですか?ところが中毒になっている対象は、それがモノであろうと行動であろうと、もはや楽しくない。でも止められない。これが like(好き)ではないが、want (欲する)という現象で、両者の分離した状態という事になる。
考えて見よう。Aさんは喫煙者だが、同時にチョコレートケーキが大好きだとしよう。タバコを吸っている時とチョコレートケーキを食べる時でどちらの方が喜びを感じるかと言うと、おそらくチョコレートケーキと答える可能性がある。(何しろ「タバコは吸っていてもおいしくない、でも止められない」と言うのだから。)しかしチョコレートケーキを3日間食べないことは特に平気であるが、タバコを3日間断つことは至難の業なのだ。タバコは like ではないけれどやめられないというわけである。
さらに嗜癖は、これほど不幸なことはないという事態を生む。嗜癖の生じた人は、そもそも人生を楽しめなくなっている。「素敵」とか「気持ちいい」という場面が生活の中になくなっていく。「好き」でなくなるのはタバコだけ、あるいはパチンコだけ、ではなくなってしまう。ちょうどそれまで原色カラーだった人生が白黒になってしまったようなものだ。「うつ病九段」の先崎先生の漫画にも出てくるが、欝では景色が白黒になり、回復期にある時突然カラーに戻るという事が起きる様なのだ。
Berridge, KC and Robinson, TE (2016) Liking,
Wanting and the Incentive-Sensitization Theory of Addiction. Am Psychol. 71(8):
670–679.
という論文を参考にするが、そこにはこう書いてある。Wanting は中脳のドーパミン系、つまり快感中枢がつかさどる。これがとんでもなく暴走しているのが嗜癖というわけだ。ところが「気持ちいい」はドーパミンに依存しない脳の別の小さな部分であるという。把握していなかった!!!