2022年3月28日月曜日

他者性について その50 「混線状態」について、うまく書けない

 人格同士の混線状態

 ところで人格さん同士がしばしば体験する「混線状態」についてここで考えたいと思います。この混線状態は人格AとBはお互いに他者であるという事実を認める上での最大の障害になっているのではないかと思います。結論から言えば、人格AとBは他者同志であるがゆえに混線することがある、と考えるべきであり、これはそれぞれの他者性を否定する根拠にはならないのです。
 DIDの患者さんは時々「今AなのかBなのかわかりません」あるいは「今自分が誰だかわかりません」と仰ることがあります。この現象は実際には、ちょうどラジオのダイヤルを回すと二つの放送局の放送が混じって聞こえることがあるのと同様に、異なるAとBという主観が混線することはしばしば起きるのです。それは結局は複数のネットワークが共通する運動野、感覚野、あるいは前頭前野を競い合って使うより仕方がありません。すると「今あなたはどなたですか?」と尋ねると「今私はAかBかわかりません。混じってしまっています」と困惑する方がいます。しかしそれは本来AとBが別々の主観であることから起きる現象です。この複数のネットワークによる脳の共有は、例えば前頭前野のワークスペース、つまりワーキングメモリーをためておく部分ですが、これさえも共有される可能性があり、ややこしくなります。
 私のある患者さんはAとBの人格が常に掛け合いをしている方がいます。その方に無理を言ってお願いしたのです。Aさんに7桁の数字を暗唱してもらいました。3719406 Bさんにも別の7桁、1359879 二人がワークスペースを半分ずつ使うのであれば、丁度テーブルを半分ずつ使うようにしてそこにメモすることが出来るでしょう。でもAさんとBさんは別々に7桁を記憶することはできませんでした。
 この様な形でAさんとBさんは時には運転席のハンドルを奪うようなことが生じるために、AさんのままでBさんの行動をしたり、その逆をしたりという事が生じます。するとそれを見た臨床家はホラね、やはり演技だ、という事になってしまうのです。
 実はフロイト自身もおそらくアンナOなどに見られた不思議な現象が忘れられず、次のように言っています。