2022年3月27日日曜日

他者性 その50 統合失調症との関連で、追記した。

  ともかく私がここで言おうとしているのは、解離性障害とは自分の脳の中にいくつかの他者が成立している状態であるという事です。そしてそれは統合失調症における他者性の病理とはかなり異なります。統合失調により聞こえてくる幻聴は、それにより自己が侵食されるような状態、いわゆる深刻な自我障害に伴って二次的に現れてくる他者からのメッセージです。その他者は障害された自我が生んだ幻の存在としての他者です。それは超越的な存在であり、実際の姿を見せません。街を歩いていて自分に鋭い視線を浴びせてくる男は、自分をつけ狙う大きな組織の一味にすぎません。
 ところが解離性障害においては他者は別の主体として、おそらく異なる神経ネットワークを伴ってすぐ隣にいます。そしてそれぞれの神経ネットワークは触覚、視覚、運動野、感覚野などを含みこんだネットワークであり、それぞれの人格が運動が得意だったり音痴だったり、好むタバコの銘柄が異なったり、酒好きだったり下戸だったりするのです。

ちなみに私はどうしてDIDが一世紀以上にわたって誤解され続けて来たかについて、この各人格が相互に他者であるという事の理解が難しいからだと思います。もちろん精神医学がこの100年間進歩していないというわけではありません。しかし多重人格の存在に精神医学者の注意が向けられるようになって長い年月が経っても、精神科医の一部はそれぞれの人間には心が一つしかないという考えを捨てられないことに変わりはないのです。