2022年3月21日月曜日

他者性 その45 「断片」という概念について

 ところで部分 parts という言い方と同様に、あるいはより深刻に感じるのが断片 fragments という言い方である。これも解離関係の本でよく見かける。

1963年にはH.Spiegel David のお父さん)が解離のことを「断片化の過程 fragmentation process 」と呼んでいる。これが最初だろうか?

Spiegel,H 1963the dissociation-association continuum. Journal of Nervous and Mental Disease, 13,374-378.

その他、解離関係の本には自己の断片化 fragmentation of self という言い方はそれこそ山ほど出てくる。Identify fragmentation などの表現もそうだ。この断片化は、記憶の断片化 fragmentation of memories とかアイデンティティの感覚の断片化 fragmentation of the sense of identity という風に妥当に使われることもあるのであまり目くじらを立てるべきではないかも知れないが、これが人格を断片とみるという意味に使われると、先ほど述べた「人格部分」という表現の持つべき問題にもつながる。

 Putnam の本ではP104に「personality fragments 人格の断片」についての解説があるが、それ自体がKluft1984)を引用している。そこだけ訳してみよう。

Kluft RP (1984). An introduction to multiple personality disorder. Psychiatric Annals, 14:19- 24.

ほとんどのMPDの患者はこの定義に見合うような交代人格や「人格断片」を有するが、この後者は立派な full-fledged 交代人格に似ているものの、人格としての幅や深さがなく、情動や行動や成育歴の幅もとても限られている(Kluft, 1984)。人格断片は典型的には怒りや喜びなどの単一の情動や、車の運転や体の防護などの単一の機能を遂行する。Braunは「特別な目的の断片」として、単一の極めて専門化された活動、例えばバスタブを奇麗にする活動のみに特化されたものを挙げている。

Most MPD patients have some alter personalities who would meet this definition, as well as a number of "personality fragments" who are similar to full-fledged alter personalities except that they lack the depth and breadth of a personality and have only a very limited range of affects, behaviors, and life history (Kluft, 1984c). A personality fragment typically exhibits a single affect, such as anger or joy, or performs a single function, such as driving the car or protecting the body. Braun adds the further distinction of "a special-purpose fragment" that may only engage in a single, highly specified activity, such as cleaning the bathtub (Kluft, 1984c).