2022年3月10日木曜日

他者性 その37 転換症状について書き加えた

 さて次の図(省略)では、このSの隣に赤い破線の〇で示したPPという場所が成立した様子が描かれている。このPPという頭文字の意味するところはまだ明らかにしないでおく。ともかくこれがSの部分の横に出現しているのを描いたのがこの図である。さて問題はこのPPから運動野や感覚野に勝手に信号が送られるのである。それを赤い線によって表している。そしてそれにより、運動野の特定の神経ネットワークが妨害され、それにより手足が動かなくなったり、意図せずに勝手に動いたりする。あるいは唇や皮膚からの感覚入力に変化が起こり、それが麻痺したり異常な感覚を起こしたりするであろう。問題はSすなわち主体は自分の体で何が起きたかを知らないという事である。PPは主体にとって他者的な存在であり、それが何を意図しているかはわからない。だから体験としては「勝手に手が動いた」「急に唇の感覚がなくなった」となるのである。

 この感覚は、例えば「無意識に手が動いた」と言い表される体験とどのように異なるのだろうか? それはかなり微妙であると言わなくてはならない。というのも私たちが「無意識的に~した」と感じる時に、どこかで自らのかすかな意図に気が付いていたりするからである。そもそも「無意識的」には記述的、力動的、という異なる用い方があるとされる。記述的、というのはそれをやっている瞬間は特に意識をしていなかったが自分が選んだ行動という自覚がある。例えば私たちは歩いている時いちいち「ハイ、次は右足を前に出して」などと意識しているわけではない。ほとんど何も考えずに足を動かしているのだろう。でも足が勝手に動いた、とは思わないわけである。無意識的にあるいたからと言って、自らの意図に反して誰かに歩かされた、とは感じないはずだ。ところがPPによって妨害信号を流された運動野や知覚野により生じる運動野近くの異常はSにとっては完全に異物と感じられるのである。
このような体験の比喩としては、サイバー攻撃などで出てくるいわゆるマルウェアが考えられる。コンピュータがいきなり狂ったようにわけのわからない文字列をアウトプットしたり、これまでに普通に開いていたプログラムが動かなくなる。どこかにウィルスが侵入して異常信号を送っているという意味では、このPPによる妨害信号ととてもよく似ている。