転換性障害の症状として私が日常接するもの中には、その症状が日常生活に影響を与えるようなものもある。比較的よく目にするのは、失立や歩行困難である。だからと言って体の中でも歩行に大きく関係する大腿四頭筋が特別転換症状に関与しているという事ではないであろう。筋力が落ちた場合に直ちに行動に影響を与えるのが大腿部の筋肉であり、その結果としてより目立つ失立の症状が現れるのであろう。患者さんの中にはこの症状の為にセッション後に椅子から立ち上がれなかったり、セッションに来る最中に駅で立ち上がれなくなって人に助けてもらいながらタクシーで来院することなどもある。幸い失立の時間は通常は限られ、時々問題が生じる程度で何とか社会生活をこなしている方が多い。
しかし時々襲ってくる突然の脱力発作はいったい何を意味するのか。患者さんは自分で足の力を抜くという事はない。自然と力が抜け、それをどうすることもできない。ちょうど長い時間正座をした私たちが、いざ立とうと思ってもしびれで一切立つことが出来ないという現象に似ている。つまり足が突然コントロールを失うのだ。
既定路線のテキストブック的な定義によれば、解離性障害とは「アイデンティティ、感覚、知覚、感情、思考、記憶、身体的運動の統制、行動のうちどれかについて、正常な統合が不随意的に破綻したり断絶したりすることを特徴とする。」(ICD-11,World
Health Organization)となる。このうち身体感覚と運動に関する記載が転換性障害という事になる。しかしそれでもわかりにくい。