「精神○○診療」という事典のようなものに執筆依頼された。ギャグが一切通用しないので書いていてあまり楽しさがない。
解離症
臨床所見
解離症は、その症状がアイデンティティ、感情、思考、記憶、身体知覚や身体的運動などの正常な統合の機能性が一時的に破綻することから生じることを特徴とする。それらの症状には実に様々なものが含まれ、これほど多彩な症状を示す精神疾患は他に類を見ないと言える。それらは健忘、複数の人格の存在、離人感や現実感の喪失などのほか、種々の身体症状(けいれん、脱力や麻痺、歩行障害、感覚変容、意識変容、発話障害など)が挙げられる。症状の出現は通常は比較的急速で、背景にトラウマ的なストレスの体験が見られる場合が多い。またその消失も同様に比較的速やかであることが多い。
検査所見
解離症状、転換症状を示す患者の多くは初発時には神経学的障害や身体疾患の発症を疑われ、救急医療を通して神経内科、脳神経外科などの身体科に送られる。しかしそこで施行される臨床的な諸検査の結果は症状を説明しえない。解離症状には何らかの神経学的な背景が存在することは疑いがないものの、CT,MRI,脳波等により検出されるような粗大なレベルのものではない。また身体的な機能的症状を説明するような神経内科的、眼科的、耳鼻科的な所見も見られない。むしろ種々の心理学的検査、例えば解離体験尺度、ITQ,CAPS,IES-Rなどはある程度はその症状の発現の傍証となり得る。
診断
解離性障害は神経学的障害や身体疾患のきめ細かな診断の除外の後にその診断が下ることが一般である。解離性障害群には解離性健忘、解離性同一性障害、離人・現実感喪失症などのほか、ICD(WHO)に従えば解離性神経学的症状症(従来の転換性障害)が含まれる。診断は主として臨床所見と発症状況やその時間経過に伴う変化も重要な決め手となる。解離症の一般的な特徴としてはトラウマやストレス状況に対する反応として症状が現れる傾向がある。精神症状、身体症状のあらゆるものを含む可能性があり、その意味では身体科での器質的な疾患の除外は決め手の一つとなる。
治療
解離症の治療の前提として、治療者側が障害の性質を十分理解し、かつそれを心理教育的に患者に伝えることが重要である。その際症状の疾病利得的な意味合いについての過剰な直面化は避けるべきである。精神療法においては、解離された部分の理解や記憶の回復を治療の主眼とするとともに、表面に表れているトラウマ記憶に関してはEMDRや暴露療法等による処理も必要となろう。加えて薬物療法、理学療法等があるが、薬物療法には決定的なものがない。ただし過度の幻聴体験や優挌観念に対して少量の抗精神病薬が有効である場合がある。また抗不安薬は解離を誘発し、中枢神経刺激薬はそれを会計させる傾向にあることは知っておいていいであろう。また気分障害等の併存症の治療は結果として解離症状の軽減につながることが多い。
経過と予後
解離性障害は症状の変遷は多くみられるものの、一般的に進行性の経過は取らず、基本的にはトラウマ関連障害と同様のコースをたどる。すなわち時間の経過とともに、そして適切な治療や保護的な環境により、徐々に軽快していく傾向にあり、最終的に社会生活に支障のない程度にまで回復することもある。しかし経済的、対人関係的なストレス状況や身体症状を含む併存症などの存在によりその回復が妨げられ、症状が遷延することも少なくない。