2022年2月6日日曜日

偽りの記憶 論文化 18

 ここの部分少し書き換えた。

 ところでこのサブリミナル効果の問題は、精神分析の世界ではより差し迫ったテーマとなり得る。精神分析で通常無意識の内容として考えられるのは、心の奥底に意識されることなく蠢いている本能や願望やファンタジーなどである。しかしフロイトはまた無意識における思考プロセスを一次過程と呼び、それは知覚同一性を目指し、圧縮や置き換えや象徴化などの文字の操作が関わるとする(Freud, 1900)。フロイトは夢において極めて特徴的な心的プロセスが働き、いくつかの単語が組み合わさるといったいわば化学反応のような現象が脳で生じて、それが症状として表れるという説明を行ったのだ。しかしそれは最近のサブリミナルメッセージの研究の一つと似ている。例えば歌に組み込まれた「バックワードマスキング」(逆に再生すると現れるメッセージ)が効果を発揮するという研究もある。「ルイテレワノロハエマオ」と聞いた人が、なぜか背筋がゾッとしたとする。そしてこれを逆向きに読むと「お前は呪われている」となり、無意識はその様なパズルを解き、ヒヤッとするという理屈だ。しかし実際にはその種のメッセージにどの程度サブリミナル効果があるか自体が議論の対象になっているが、それはフロイトが想定したような無意識による一次過程の影響と同じレベルの問題と言えるだろう。サブリミナル効果の問題の複雑性はこのように精神分析的な心の理論をどのように臨床に位置付けるかという問題とも連動しているのである。