2022年2月9日水曜日

引き続き 他者性の問題 11

  解離における他者性について論じるためには、いわゆる転換性障害において生じていることから語り起こさなくてはならないであろう。ICD-10,ICD-11の記載にみられるとおり、いわゆる転換性障害は解離性障害の一部として最も整合的に理解することが出来る。では転換性障害(のちに述べるように最近ではこの名称の変更が見られた)とは何か?
 もちろん既定路線のテキストブック的な定義はある。それは次のようなものだ。「解離性障害はアイデンティティ、感覚、知覚、感情、思考、記憶、身体的運動の統制、行動のうちどれかについて、正常な統合が不随意的に破綻したり断絶したりすることを特徴とする。」(ICD-11,World Health Organization)それによれば、「感覚、知覚、身体的運動の統制や行動の正常な統合が不随意的に破綻したり断絶したりすること」ということになる。しかしそれでもわかりにくい。
 この解離性障害の定義が一体何を言おうとしているかと言えば、人間の精神、身体機能は纏められて(統合されて)いて、それが失調した場合に解離性の症状が起きる、ということだ。要するに心身がバラバラに動き出すということだが、これでもまだわからない。しかし解離の臨床に携わっている立場からは、次のような表現が一番ぴったりくるように思う。それは脳のどこかにある種の中心が出来上がり、そこが勝手に信号を送って体の動きを妨害する、といった障害なのである。本書をお読みになっている方は、私の筋書きが少しお分かりかも知れない。そう、そのどこかの中心とは、「他者」の原型なのだ。ただしそれはまだ人格を成しているわけではない。脳のどこか、おそらくは前頭葉のどこかに出来上がったニューラルネットワークということになろう。そこが異常信号を発する。それもあるとき決まったようにそれを行うことが多い。まるで意図を持っているかのようである。