サブリミナル効果
サブリミナル効果とは、意識にのぼらないような強度の刺激を与えられることで、人間の行動に変化が生じるという現象を指す。1950年代の有名なポップコーンの実験以来このテーマの研究は色々行なわれているが、それでも今一つその存在の決め手がないようだ。しばしば例に挙げられる1957年のジェームズ・ヴィカリーの調査とは次のようなものだ。彼は米国ニュージャージー州のある映画館で上映中のスクリーン上に、「コカコーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」というメッセージが書かれたスライドを1/3000秒ずつ5分ごとに繰り返し映写したという。するとコカコーラについては18.1%、ポップコーンについては57.5%の売上の増加がみられたとのことである。この実験は大きなセンセーションを巻き起こしたが、ヴィカリーは、アメリカ広告調査機構の要請にも関らず、この実験の内容と結果についての論文を発表せず、また同様の実験が追試されたがこのような効果はなかったとされる。数年後にはヴィカリー自身が「マスコミに情報が漏れた時にはまだ実験はしていなかったし、データも不十分だった」という談話を掲載したという。また1958年2月に、カナダのCBCが行った実験で、ある番組の最中に352回にわたり「telephone now(今すぐお電話を)」というメッセージを映してみたが、誰も電話をかけてこなかったという。さらには放送中に何か感じたことがあったら手紙を出すよう視聴者に呼びかけたが、500通以上届いた手紙の中に、電話をかけたくなったというものはひとつもなかったというのだ。
ただしサブリミナル効果の存在を示したという、信憑性のある実験結果も報告されている。ベリッジとウィンキルマンBerridge and Winkielman(2003)による研究では、参加者を募って3つのグループに分け、彼らが気が付かないようなほんの一瞬、3枚の写真のどれかを見せたという。それらの写真とは笑顔と中立的な顔と怒った顔の三枚である。そしてその後フルーツ飲料を自分で好きなだけ自分のグラスに注がせるという実験である。その結果は笑顔を見せられた人たちは、それ以外の人たちに比べて50%ほど多くフルーツ飲料を自分のグラスに注いだという。
という事でサブリミナル効果の真偽は実験者によって異なるという事になるが、一つ言えることがあるだろう。それは意識に上るか上らないかの情報が私たちの判断に影響を与えるという事は数多くあるという事実だ。例えば無人の販売所で、大きな目を描いた絵を置いておくと、人はよりずるをしないという研究がある。その場合正直に支払った人のどの程度がその絵を意識するか、なんとなく感じるか、あるいはまったく気が付かないかというのは、その間の線引きもあいまいなものである。つまり人は気が付かないうちに様々な情報に影響を受けるという事実は間違いなくあるのだ。しかしそれは恐らく、気が付こうと思えば気が付くようなレベルの刺激であろう。3000分の一秒という瞬時に映される像は、おそらくそれにいくら目を凝らしても知覚できないであろうし、それに影響を受けるという事はあまり考えられないだろう。ところがどのような表情の写真を見せられたかは、はっきり意識化される情報である。その意味でヴィカリーの研究に信憑性はないが、ベリッジの研究には信憑性が生まれるのである。
フロイトは夢において極めて特徴的なプロセスが働き、いくつかの単語が組み合わさるといったいわば化学反応のような現象が脳で生じて、それが症状として表れるという説明を行った。しかしそれは最近のサブリミナルメッセージの研究の一つと似ている。例えば歌に組み込まれた「バックワードメッセージ」(逆に再生すると現れるメッセージ)が効果を発揮するという研究もある。「ルイテレワノロハエマオ」と聞いた人が、なぜか背筋がゾッとする。それはこれを逆向きに読むと「お前は呪われている」となり、しかし無意識はその様なパズルを解き、ヒヤッとするという理屈だ。でもこんなことあるはずはないではないか?その意味ではアナグラムの持つ効果なども同様ではないかと思う。