2021年12月15日水曜日

偽りの記憶の問題 7

 ジュリア・ショウの好著「脳はなぜ都合よく記憶するのか」を読み始めて59ページ目に目から鱗のことが書かれていた。

記憶に関してよく出てくる「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」というのがある。いわゆる逆U字カーブの話だ。

簡単に言えば、私たちは覚醒度が低すぎても高すぎても記憶力を発揮できないということだ。適度の覚醒度が一番効果があるというわけである。しかしそれはすべてを説明しないという。マーラ・マザーとマシュー・サザーランドは、覚醒度が高まると、重要性の高い、あるいは印象的な情報の記名は高まると同時に、重要度の低い情報の処理が抑制されるという事が分かったという。つまり「情動換起下で情報の淘汰が進む」というのだ。その例として、銀行強盗に出くわせば、自分を狙っていた拳銃のことはしっかり覚えていても、他のことはまず思い出せない。本当は銀行強盗の顔を覚えておかなくてはならないのに、そうはならないというのだ。それを「凶器注目効果 weapon-focus effect」というらしい。結局こういうことが言える。私たちは印象深い出来事をそれだけ正確に覚えているかと言えば、必ずしもそうではない。むしろその出来事の些末部分は偽りの記憶化するというリスクを有しているのだ。